ご相談者様の状況
- 依頼者:Aさん(40代男性)
- 妻:Bさん(40代女性)
【事案】
AさんとBさんは婚姻期間が20年以上にも及ぶ、地域でも有名なおしどり夫婦。
すでに成人した娘2人と、Bさんの実家の近くで仲良く暮らしていました。
しかし、あるときからBさんがAさんにそっけなくなります。
AさんがBさんの携帯を見てみると、BさんがCさんと肉体関係や恋愛感情をにおわせるダイレクトメッセージのやりとりをしていました。
Aさんは、Bさんの母の立ち合いのもと、Cさんと面談する機会を設け、Cさんに二度とBさんに連絡をとらないよう約束させましたが、その後もBさんとCさんはやりとりをしていました。
やりとりがばれたBさんは、Aさんに関係の修復を求めるのではなく、「離婚してください。」と伝えました。
おしどり夫婦だった2人の仲が険悪になり、娘たちも心に傷を負いました。
Aさんは、家庭を破壊したCさんを許すことができず、慰謝料請求を検討し、弊所に相談にいらっしゃいました。
【解決内容】
弁護士が事件を受任すると、相手方に弁護士が就いた旨を伝える受任通知を送ります。しかし、不貞事件においては、不貞相手に同居の家族がいた場合、その家族が受任通知を見て不貞を知ってしまうことが起こり得ます。
そのため、予め相手方に受任通知の送付方法を確認することがあります。今回も、受任通知を送付する前に、Cさんに対して本人限定受取にするべきか、しなくていいかを確認する旨のお電話をしました。
慰謝料請求をする旨を伝えると、Cさんから反論が繰り広げられました。
内容をまとめると、
① ダイレクトメッセージのやりとりはやりとりだけで肉体関係はなく、自分にBさんへの恋愛感情はない
② Bさんは長年AさんのDVに苦しみ、離婚を検討し、Cさんに相談していた
というものでした。
そして、自分は争う気はないから、なんとかAさんをなだめるようにと主張されました。「本人限定受取のほうがよいですか。」「はい。」「また内容を確認してくださいね。」程度のやりとりで終わると思っていたので、当時はえらいことになってしまったと焦燥しておりました。
しかし、後から考えれば、早い段階からCさんの反論がわかったため、迅速な解決につながりました。
Cさんの反論は、実は不貞慰謝料請求においてはよくあるものです。
①については、あわせて探偵の報告書や、ラブホテルに2人で入る写真等があれば解決なのですが、本件においてはそういった証拠はなかったため、対処が必要でした。
②については、おそらくCさんは意識していなかったでしょうが、「婚姻関係破綻の抗弁」というものにあたります。
不貞慰謝料は、不貞したことによって婚姻関係を破綻させたことに対する慰謝料であるところ、自分が不貞する前から婚姻関係は破綻していたのだから、自分は賠償責任を負わない、という反論です。
弁護士は、改めて、Cさんに対して慰謝料を請求する連絡文を作成しました。
まず、①への対策です。BさんとCさんのダイレクトメッセージのやりとりの中で、性的な関係や、恋愛感情をにおわせるもの、いつかBさんとCさんが結婚することを互いに希望していることがわかるものをピックアップし、Cさんに送る連絡文に記載しました。
そのうえで、これらのやりとりを見ると、BさんとCさんは恋愛感情に基づく肉体関係があったと考えざるを得ないこと、Cさんは、Bさんといつか結婚することを希望していたことから、AさんとBさんの婚姻関係を破綻させることを認識していたといえることを主張しました。
次に、②への対策です。AさんとBさんは、BさんとCさんの不貞が始まる前は様々な場所に旅行に行き、お互いの親戚にも頻繁に会っていました。
Aさんにその写真を提供していただき、厳選した写真(それでも複数枚にわたりました)を連絡文に添付して送りました。
これにより、AさんとBさんの婚姻関係は不貞の前には円満であったことを示したのです。
また、DVについて相談を受けていたとの主張ですが、BさんとCさんのやりとりを見てもAさんのDVへの言及はありませんでした。その旨も併せて指摘しました。
連絡文を送付したところ、Cさんから電話がかかってきました。Cさんは、「私には争う気はありません、だから払います。」と言い、請求額全額の支払いに応じました。
【担当弁護士の所感】
当初は、メッセージのやりとりしか証拠がないことに不安がありましたが、先輩弁護士のアドバイスを受け、メッセージの内容を精査し、不貞関係の存在を主張しました。また、Aさんがとても協力してくださり、写真の提供や、事実関係の確認に迅速に応じてくださいました。
この事件が終了し、Cさんとの間で作成した合意書をAさんにお渡しした際に、Aさんから、「○○万円とれても、あまり嬉しくないものですね。」と悲しそうに言われてしまいました。
「頑張ったのになあ……。」と思わなくもなかったのですが、円満な夫婦関係が破綻した悲しみは、夫婦関係が円満であればあるほど、お金をもらって慰謝できるものではありません。
それでも、AさんはCさんが何のお咎めもなくのうのうと生活することが許せなくて、慰謝料請求をすることを決めました。
今回獲得できた慰謝料が、せめて、Aさんの今後の生活の支えになることを願っています。
解決期間
1か月(受任から示談成立まで)