ご相談者様の状況

- 相談者:30代男性
- 職業:公務員
- 同乗者:妊娠中の妻
- 過失割合:相談者側0、相手方10
- 弁護士費用特約:あり
相談内容
Aさんは、妊娠中の妻を助手席に乗せて国道を走行していたところ、後方から走ってきた車に追突されました。衝撃が特に強く、車両の後部は大きく破損しました。事故により、AさんとAさんの妻は首や腰を痛め、夫婦で整形外科を受診しました。
後日、相手方保険会社からは、Aさん側に過失はなく、過失割合は0対10になるとの説明を受けましたが、Aさんがもっとも心配だったのは、Aさんの妻が出産を約3か月後に控えていることでした。
妻は治療を受けたいと考えていましたが、胎児への影響を心配し、出産への影響を最小限に抑えるため、受けられる検査や治療が限られていました。
また、Aさんも仕事のため十分に通院できておらず、頭痛により仕事を1日休んだほか、通院のために半日休暇を取得しているのみでした。
物損については自身の車両保険などを利用して解決する見込みでしたが、夫婦のけがについては、出産への影響も分からないため、すぐに示談をしてよいのか不安を感じていました。
Aさんは、出産を優先しながら適切に治療を受ける方法や、夫婦2人分の人身損害について今後どのように対応すればよいかを確認したいとして、弊所へ相談されました。
※本記事に掲載している「相談時にお伝えした内容」は、ご相談時に確認できた事情や資料を前提とするものであり、当事務所が本記事をご覧の方の個別の事案について法的な見解を示すものではありません。事情によって判断や結論が異なる場合がありますので、具体的な事案については弁護士へご相談ください。
相談時にお伝えした内容
1 夫婦それぞれが交通事故の被害者となること
同じ車に乗っていた夫婦であっても、交通事故によってそれぞれがけがをした場合には、夫と妻それぞれが被害者となります。
そのため、本件では、運転していたAさんだけでなく、助手席に乗っていた妻についても、それぞれの症状や治療経過に応じて、治療費、通院交通費、休業損害、通院慰謝料などを検討する必要があることを説明しました。
弁護士へ依頼した場合には、夫婦それぞれの診断内容や通院状況を確認し、2人分の損害を整理したうえで、相手方保険会社との交渉をまとめて任せることができます。
2 過失0の事故では、自分の保険会社が示談交渉を行えない場合があること
本件では、事故当日に、Aさん側の過失は0であるとの説明を受けていました。
被害者に過失がない事故では、被害者側の保険会社は相手方に対して賠償責任を負わないため、原則として、被害者に代わって示談交渉を行うことができません。そのため、被害者本人が相手方保険会社と交渉するか、弁護士へ依頼する必要があります。
Aさんは、妻の出産を控えた中で、保険会社とのやり取りを負担に感じていました。そこで、弁護士へ依頼すれば、相手方保険会社への連絡や資料の提出、示談金額の確認などを任せることができると説明しました。
3 妊娠中で治療方法に制限がある場合の対応
妻は妊娠中であったため、通常であれば行われることのある検査、投薬、湿布、電気治療などを受けることが難しい状態でした。
もっとも、妊娠中であることを理由に、無理に症状を我慢したり、自己判断で受診を中断したりすることは適切ではありません。
まずは、整形外科と産婦人科の医師に妊娠中であることを伝え、胎児への影響に配慮しながら受けられる検査や治療について相談する必要があります。
また、治療方法が限られている場合でも、痛みの部位や程度、日常生活への影響などを医師へ継続して伝え、診療録に残してもらうことが重要であると説明しました。
4 出産への影響を確認してから示談を検討すること
交通事故の示談が成立すると、原則として、後から同じ事故について追加の請求をすることは難しくなります。
本件では、妻が出産を控えており、相談時点では、事故が妊娠経過や出産に与える影響が明らかになっていませんでした。
そこで、相手方保険会社から示談を求められても、直ちに応じるのではなく、産婦人科の医師の見解や出産後の母子の状態も確認したうえで、示談時期を慎重に検討する必要があることを説明しました。
ただし、事故と妊娠経過や出産後の症状との因果関係が当然に認められるわけではありません。実際に何らかの影響が生じた場合には、医師の診断や検査結果などの医学的な資料を基に検討することになります。
5 通院が難しい事情も記録しておくこと
通院慰謝料などを検討する際には、治療期間だけでなく、実際の通院状況や治療内容も確認されます。
本件では、Aさんは仕事の都合により、妻は妊娠中で受けられる治療が限られていたことにより、十分に通院できていない状況でした。
もっとも、痛みがあるにもかかわらず通院の間隔が大きく空くと、症状が軽い、または事故との関係が薄いと判断される可能性があります。
そのため、医師と相談しながら可能な範囲で通院を続けるとともに、仕事や妊娠などにより通院や治療が難しかった事情についても記録しておくことをご案内しました。
6 夫の休業損害を確認すること
Aさんは、事故後の頭痛により仕事を1日休み、通院のためにも半日休暇を取得していました。
有給休暇を利用した場合でも、事故によるけがのために休暇を取得したのであれば、休業損害の対象となる可能性があります。
そこで、勤務先に休業損害証明書を作成してもらい、事故による欠勤、遅刻、早退、有給休暇の取得状況などを確認する必要があることを説明しました。
7 妻の家事への支障についても確認すること
妻は相談時点で専業主婦であり、妊娠中でもありました。
専業主婦には給与収入がありませんが、交通事故によるけがのため、炊事、洗濯、掃除、買物などの家事に支障が生じた場合には、家事従事者として休業損害が認められる可能性があります。
ただし、妊娠そのものによる家事の制限と、事故による首の痛みなどによる支障を区別して検討する必要があります。
そのため、事故前に妻が担当していた家事などを具体的に整理するようご案内しました。
8 弁護士費用特約を夫婦で利用できるか確認すること
Aさんの自動車保険には、弁護士費用特約が付いていました。
弁護士費用特約は、契約者本人だけでなく、配偶者や同乗していた家族も対象となる場合があります。
もっとも、対象者の範囲や夫婦それぞれの費用限度額は契約内容によって異なります。そのため、Aさんと妻の双方について特約を利用できるか、保険会社へ確認する必要があることを説明しました。
特約を利用できれば、一般的には補償限度額の範囲内で弁護士費用を保険会社に負担してもらえるため、夫婦2人分の示談交渉を費用面の負担を抑えて依頼できる可能性があります。
ご相談後の対応
Aさんは、妻の出産を優先しながら治療を継続し、出産後の状態も確認してから示談交渉を進めたいと希望されました。
また、相手方保険会社とのやり取りを負担に感じており、夫婦2人分の人身損害についてまとめて対応を任せたいとの意向がありました。
そこで、夫婦それぞれの治療経過や生活への影響を確認しながら、出産後に示談交渉を進める方針で、弊所が人身損害の対応をお引き受けすることになりました。
担当弁護士の所感
夫婦で乗車中に交通事故に遭い、2人ともけがをした場合には、夫婦それぞれについて損害を検討する必要があります。
特に妊娠中の方が交通事故に遭った場合には、胎児への影響を心配し、検査や治療を控えてしまうことがあります。しかし、症状を自己判断で我慢するのではなく、整形外科と産婦人科の医師に相談しながら、安全に受けられる検査や治療を検討することが大切です。
また、治療方法に制限がある場合や出産を控えている場合には、通常の交通事故よりも示談の時期を慎重に判断する必要があります。母子の状態が明らかになる前に示談を成立させると、その後に生じた事情について追加請求することが難しくなる可能性があるためです。
過失割合が0の事故では、自身の保険会社に示談交渉を任せられない場合があります。夫婦2人ともけがをしている場合には、それぞれの治療状況や休業損害、家事への支障などを整理しなければなりません。
妊娠や出産を控えた中で保険会社とのやり取りに不安を感じた場合には、示談を進める前に、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。










