ご相談者様の状況
- 相談者:Aさん(50代男性・会社員)
事案
Aさんは、長年会社員として勤務し、毎月安定した収入を得ていました。しかし、生活費などを補うために複数の金融機関から借入れを重ねた結果、住宅ローンや自動車ローンのほか、多額の債務を抱えるようになりました。
相談時点では返済を続けていたものの、毎月の返済額が大きく、今後もこれまでどおり支払いを続けることは難しい状況でした。
また、Aさんには自宅不動産や自動車、保険、将来受け取る予定の退職金などの財産がありました。家族関係にも大きな変化が生じており、今後、家族間で自宅などの財産をどのように整理するかについても検討しなければなりませんでした。
Aさんは、自宅については家族が引き続き住めるようにしたいと考えていました。また、仕事への影響も心配していたため、できれば自己破産を避け、住宅を残せる可能性のある個人再生を利用したいと考えていました。
そこでAさんは、個人再生によって債務を整理することができるか、家族間の財産整理と債務整理をどのような順序で進めればよいかについて、弊所へ相談にいらっしゃいました。
※本記事に掲載している「相談時にお伝えした内容」は、ご相談時に確認できた事情や資料を前提とするものであり、当事務所が本記事をご覧の方の個別の事案について法的な見解を示すものではありません。事情によって判断や結論が異なる場合がありますので、具体的な事案については弁護士へご相談ください。
相談時にお伝えした内容
1 任意整理・個人再生・自己破産の比較
最初の相談では、Aさんの収入、毎月の生活費、債権者数、債務額、自宅や自動車の状況などを確認し、任意整理、個人再生、自己破産の各手続を比較しました。
任意整理は、裁判所を利用せず、債権者との交渉によって将来利息のカットや分割返済を目指す手続きです。しかし、元金そのものが大幅に減額されるとは限りません。
Aさんの場合、債務額に対して毎月用意できる返済原資が十分ではなく、任意整理をしても、現実的に支払える金額まで毎月の返済額を減らすことは難しいと考えられました。
一方、自己破産で免責が許可されれば、原則として債務の支払義務を免れることができます。しかし、Aさんは、仕事や自宅への影響を強く心配していました。
そこで、当初は、安定した収入を得ながら債務の一部を原則3年間で分割して返済する個人再生を中心に検討することにしました。
2 家族間の財産整理を先に進める場合の注意点
Aさんは、家族関係の変化に伴い、自宅などの財産を家族へ引き継ぐことも検討していました。
しかし、債務整理を予定している方が、申立て前に不動産や預貯金などを一部の家族へ渡した場合、その内容によっては、他の債権者を害する財産処分であると評価される可能性があります。
また、家族間では適切な財産整理だと考えていたとしても、その財産の評価額や住宅ローンの負担状況、取得する側が支払う対価などを客観的に確認する必要があります。
そのため、Aさんには、債務整理の方針が固まらないまま、自宅の名義変更や預貯金の移動などを進めないよう説明しました。
家族に関する問題と債務整理の問題が同時に生じている場合、どちらか一方だけを見て手続を進めると、もう一方の手続に影響することがあります。まずは財産と債務の全体像を明らかにし、進める順序を慎重に検討する必要があることをお伝えしました。
3 個人再生が可能かどうかの再検討
初回相談後、Aさんには、住宅ローンを含む各債務の残高、退職金の見込額、保険の解約返戻金、自動車ローンなどが分かる資料を準備していただき、再度相談を行いました。
資料を基に改めて計算したところ、住宅ローンを除いても債務は数千万円に上ることが分かりました。また、長年勤務していることから、相当額の退職金を受け取れる見込みもありました。
個人再生では、債務額だけでなく、保有している財産の価値も返済額に影響します。再生計画に基づく返済総額は、原則として、自己破産をした場合に債権者へ配当される財産の価値である「清算価値」を下回ることができません。
そのため、退職金見込額の一部や保険の解約返戻金なども考慮した上で、個人再生によって必要となる返済額を検討する必要がありました。
Aさんの場合、債務額や財産の内容を踏まえると、個人再生を選択しても返済額が相当高額になる可能性がありました。今後の収入や生活費、家族に関する支出なども考慮すると、再生計画に基づく返済を継続することは現実的に難しいと判断しました。
4 通常管財事件としての自己破産について
個人再生による解決が難しいと考えられたため、Aさんと改めて協議し、自己破産を選択した場合の影響や手続の見通しを説明しました。
Aさんには自宅不動産があり、退職金見込額の一部など、調査や換価の対象となり得る財産もありました。そのため、破産管財人が選任されない「同時廃止事件」ではなく、破産管財人が財産や債務の経緯を調査する「通常管財事件」として進める可能性が高いことを説明しました。
通常管財事件では、裁判所へ納める予納金や弁護士費用を準備する必要があります。また、自宅の処理や、財産として評価される退職金相当額などについても、破産管財人や裁判所の判断を踏まえて対応しなければなりません。
Aさんには、必要となる費用や財産相当額をどのように準備するか、収入と支出を確認しながら積立計画を立てる必要があることもお伝えしました。
5 自己破産を申し立てるまでの準備について
Aさんは、個人再生と自己破産の違いや仕事への影響、家族との財産整理について複数回相談した上で、最終的に通常管財事件として自己破産を進める方針を選択しました。
方針決定後は、使用中のクレジットカードを停止し、新たな借入れや一部の債権者だけへの返済を行わないよう説明しました。また、預貯金の取引履歴、保険関係の資料、退職金の見込額が分かる資料、家計表など、破産申立てに必要となる書類の準備を始めました。
自己破産を申し立てる際には、現在保有している財産だけでなく、過去の口座取引やクレジットカードの利用状況、借入れの経緯などについても説明を求められます。そのため、Aさんには、インターネット上の売買やキャッシュレス決済を含めた取引履歴を保存し、財産や債務の状況を正確に申告することが重要であると説明しました。
担当弁護士の所感
Aさんは、当初、安定した収入があり、自宅も残したいと考えていたため、個人再生を希望していました。
しかし、「安定した収入がある」「住宅ローンを支払っている」という事情だけで、個人再生が最も適しているとは限りません。
個人再生を利用できるかどうかを判断するためには、債務の総額だけでなく、毎月の収支、自宅や自動車の価値、保険の解約返戻金、退職金見込額などを総合的に確認する必要があります。一定の財産がある場合には、清算価値との関係で、想定していたほど返済額を減らせないこともあります。
また、本件のように、家族関係の変化と債務問題が同時に生じている場合には、財産整理の順序にも注意が必要です。家族の生活を守るために行った財産の移転であっても、その時期や内容によっては、その後の個人再生や自己破産に影響する可能性があります。
Aさんには複数回相談へお越しいただき、資料がそろうたびに、個人再生を利用した場合の返済可能性や、自己破産による仕事・財産への影響を検討しました。その結果、当初希望していた個人再生に固執するのではなく、現在の債務と財産の状況に適した自己破産へ方針を変更することができました。
債務整理の方法は、最初の相談だけで決まるとは限りません。特に、不動産や退職金がある方、家族間で財産を整理する予定がある方は、実際に財産を動かす前に弁護士へ相談することが重要です。
「自宅を残したいから個人再生」「財産があるから自己破産はできない」とご自身だけで判断せず、債務額や財産、収入、今後の生活を整理した上で、適切な手続を検討することをお勧めします。










