岡崎事務所ブログ

後遺障害等級3級以下の場合の将来介護費用について

弁護士 田村淳

想定事例

男性(20代)が交通事故の被害に遭い、自賠責の後遺障害等級認定で後遺障害等級5級と判断されました。

事故後の影響により足も不自由となり、事故前の仕事を続けることもできず、家族からの援助を受けながら生活しています。
この場合に、将来介護費用について請求ができるでしょうか。

なぜ問題となるか

(1)将来介護費用とは、後遺障害が残存したことにより付添看護が必要となった場合の将来(症状固定後)においてかかる付添看護費のことをいいます。

事故により後遺障害が残る場合、身体が不自由となることから、将来にわたり家族や職業介護人からの援助を受ける必要が出てくることがあります。

後遺障害は治るものではありませんから、援助の必要性は一生涯続くことなります。そのような場合に、生涯にわたりかかる付添看護費用を請求することがあります。

(2)問題
将来介護費用については、一般に後遺障害等級1級や2級が認定された場合には認められます。「常に介護を要する」場合には1級、「随時介護を要する」場合には2級の後遺障害が認定されるように、これらの等級では介護を要することが要件とされているため、将来の付添看護が必要であることが明らかです。

しかし、後遺障害等級3級以下では介護の要否が後遺障害等級認定の要件とはされていません。

事故の影響により家族の方が援助をしている場合には、当然将来にわたって看護する費用を請求したいところですが、介護の必要性があるか否かの判断が明確ではないこと等から将来介護費用が認められるか問題となることがあります。

裁判例

以下に、後遺障害等級3級以下の後遺障害等級が認定された裁判例をご紹介いたします。

(1)東京地判平成21年7月23日

【後遺障害の内容】
併合3級(高次脳機能障害5級、右足関節機能障害8級等)

【裁判所の判断】
① 介護の必要性について
・「本件事故後、通院及び服薬、身辺の清潔保持、金銭の管理、危険に対する対応等の行動を1人で適切に行うことができず、無意味なおしゃべりを続けたり、トイレの水を流さなかったりするなどその行動には異常な点が見られ、外出も嫌がるようになり、原告X2(父親)以外の者との人間関係を築くことができないいわゆる引きこもり状態に陥って」いる。

・「原告X1(被害者)が日常生活を円滑に行えるようにするためには、原告X2による看視や声掛けなどの介護が必要である一方、…着替えや食事の摂取等の最低限の日常的な行為は自力で行うことができることが認められ、これらの事情に照らすと、原告X1には常時の介護や援助が必要とまではいえないが、随時の介護が必要である」

② 将来介護日額について
・「原告X1には高次脳機能障害が残存しており、随時介護を必要とするが、その程度は必ずしも高度であるとまではいい難いから、その日額は3000円とするのが相当である。」

以上のとおり、本裁判例では、随時介護の必要性があると認定しましたが、その必要性は高度ではないことから日額3000円の限度で将来介護費用を認めました。

(1)東京地判平成21年7月23日

【後遺障害の内容】
高次脳機能障害5級

【裁判所の判断】
① 介護の必要性
・ 被害者は退院後復学したが、「記憶障害や集中力低下等のため、学業に支障を来しており、卒業は相当に難しく、希望していた建築関係の仕事への就職は更に困難な状況にある」

・ 被害者は「数分前のことも忘れてしまう、至近距離にある場所までの道順も覚えられないなどという強度の記憶障害、日用品の買物の際に購入する品物を決められないほどの判断力低下等が明らかに見られ、独力で生活するのは事実上困難」である。そのため、被害者の両親が頻繁携帯電話やメールで被害者に連絡し「外出時の交通手段等細部にわたるまでの指示を繰り返したり、生活状況を確認したりしている。」

・ 被害者は「本件事故後、感情の起伏が激しい、情緒不安定な状態に陥る、思い込みが強くたとえそれが誤っていても頑強に正そうとしないなどという傾向が顕著に見られるようになり」、家族に対しては「しばしば理不尽な要求や怒りを向けるなどし、さらに、他人に対しても、親しい友人が自分の金を取ろうとしていると根拠のない疑いを口にするなど、通常の対人関係を保てなくなりつつある。」

④ 被害者は「本件事故前はかなり優れた運動能力を有していたが、本件事故後、走れない、手すりを持たないと階段を昇降できない、一定時間座って同じ姿勢を保てない、1人で立ち上がれないことも時々あるなど、運動機能にかなりの低下が見られる。」

そして、「一応の日常生活動作は可能であるものの、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、判断力低下、対人技能拙劣等が見られ、随時看視及び声かけを要する状態が生涯続くものと認められる」と判断しました。

② 将来介護日額
平均余命までの間の期間について、日額2000円の付添介護料を認定しました。

まとめ

以上のとおり、被害者の事故後の日常生活への支障の程度によっては、将来介護の必要性が認められ、将来介護費用が肯定される場合があります。

高次脳機能障害は、易怒性などの人格変化や記憶力低下等が典型的な症状として現れることが多く、目に見えにくい後遺障害であるといわれています。

事故後の変化の程度は被害者ごとに異なるため、その変化を具体的に主張立証することにより後遺障害等級3級以下の場合であっても将来介護費用が認められる可能性があるといえます。

介護の必要性が認められる場合には、その日額がいくらかということも問題となります。後遺障害1級や2級と比べると日額は低く認定されている事例が多いと思われます。

もっとも、後遺障害が複数残存しているケース等事情により支障の程度は異なり、事案によっては1級や2級の場合と同程度の介護費用が認められる事例もあります。

1で挙げた想定事例では、高次脳機能障害5級ということだけですので、将来介護費用が認められるか否かはケースバイケースといえます。少なくとも、当然には将来介護費用が認められる訳ではありませんので、事故後早い段階から専門家に相談する等して対策をしておいた方がよいでしょう。

   
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