弁護士 大野貴央
「養育費の未払い」は社会問題として広く周知されるようになりました。
近年、この問題に関連して、一般企業による「養育費保証サービス」事業が活発に展開されるようになりました。
インターネットで「養育費保証」と検索すると、複数の事業者が確認できます。
養育費保証サービスとはどのような仕組みなのでしょうか?
養育費保証サービスの仕組み
養育費保証サービス事業を展開している会社のホームページ等を参照すると、概ね次のような流れでサービスが提供されるようです。
1 | 申込者(養育費権利者)が申込を行うと、サービス会社により、
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2 | 審査が通った場合、サービス会社は、元配偶者との間で保証委託契約※を締結する。 |
3 | サービス会社は、元配偶者から委託を受けた保証人として、申込者に対し、「保証金」として養育費相当額を支払う。その際、保証金の一部を「保証料」として徴収する。 |
4 | サービス会社は、保証人による求償権行使※として、元配偶者に対し、支払った保証金額を請求し、養育費相当額の回収を行う。 |
※サービス会社が元配偶者との間で保証委託契約を締結せず、「委託を受けない保証人」(民法462条)として求償権行使をし、元配偶者から回収を図るケースもあるようです。
同サービスによって、養育費の未払いに悩む方は、弁護士へ依頼せずとも、サービス会社から養育費相当額の「保証金」を受け取ることができるということです。
利便性の高いサービスと思われる「養育費保証サービス」ですが、問題はないのでしょうか?
考えられる問題点
弁護士法72条
弁護士の視点から養育費保証サービスをみたときに、まず問題として思い浮かぶのは、弁護士法との関係です。
弁護士法72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、「法律事務」を取り扱うことを禁じています。
「法律事務」の解釈については様々な見解があります。
しかし、「法律上の義務である養育費の支払い」に関して、元配偶者と「交渉を行う」場合は、法律事務に該当すると考えられます。
サービス会社のホームページ等によれば、
「サービス会社は、元配偶者との間で養育費の支払交渉を直接行うことはないため、弁護士法72条には抵触しない」
と説明されています。
しかし、実際にサービス会社が元配偶者へ連絡を取るにあたり、
養育費の支払に関する交渉が全くなされないのかは疑問といえます。
弁護士法73条
また弁護士法73条は、他人の権利を譲り受けて、その権利の実行をすることを業とすることを禁じています。
例えば、他人から債権の譲渡を受け、その取り立てを業として行うことは、弁護士法73条により原則禁止されています。
特別法で許可された債権回収業者にしか許されていません。
これを養育費保証サービスに照らしてみましょう。
たしかにサービス会社は、申込者から養育費の権利を直接譲り受け、
権利の実行として元配偶者から養育費を回収しているわけではありません。
しかし、養育費保証サービスの仕組みを俯瞰するとどうでしょうか。
サービス会社は、
① 申込者(権利者)が養育費請求権を有することを前提として
② 元配偶者(義務者)から養育費相当額を「保証履行で生じた求償権」名目で回収し
③ 申込者からは「保証料」名目で報酬を受けています。
実質的には、弁護士法が禁じている、
養育費の回収代行業務をしているのではないかとの疑問を抱きます。
個人的な見解であり、違法とした判例があるわけではありません。
以上の法律論はあくまで本稿著者の個人的見解であります。
養育費保証サービスの適法性について、裁判所が明示的に判断した例はありません。
また、養育費の未払いに悩む方にとっては、
「細かい法律的な問題はどうでもよいではないか」
との意見もあるかと思います。
考えられるリスク
しかし、弁護士法が厳重な規制を設けている目的は、
『<高い職業倫理が課されている弁護士>でない者』が関与する
悪徳業者の氾濫によって、国民の権利が不当に害されることを防ぐ
ことにあります。
弁護士法に違反する疑いのあるサービスを利用した場合、
様々なトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
トラブルになったケース
2021年4月には、某養育費保証サービス会社が、法律事務所との提携関係を解消し、顧客との契約関係に混乱が生じたとの報道もありました。
養育費保証サービスが定める「保証料」は、弁護士に委任した際の報酬と比べても決して低額とはいえず、サービスの適法性、対価の妥当性は十分に議論されていないのが現状です。
適正なものであるかについては、慎重な議論が必要です。
弁護士としては、未払い養育費の問題が社会的に解決の方向へ向かうことは喜ばしく思う一方、養育費保証サービスについては、適法・適正なものであるか、慎重に検討していく必要があるのではないかと考えます。