岡崎事務所ブログ

年少者の死亡逸失利益について

1. 死亡逸失利利益の算出方法

死亡逸失利益は、

基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応する中間利息控除係数

により算出されます。

就労の始期は18歳、終期は67歳とされます。

ガベル

年少者については18歳に至るまでの間、就労の蓋然性がないことから「18歳に至るまでの間の逸失利益(中間利息控除係数)」は控除されます。

したがって、年少者の死亡逸失利益は

基礎収入×(1-生活費控除率)×(67歳までの中間利息控除係数ー18歳に達するまでの中間利息控除係数)

という計算式により算出します。

年少者の場合、収入がないことから、逸失利益を算出するにあたり、「基礎収入額をどうするのか」が問題となります。

2. 年少者の基礎収入

未就労者の逸失利益については、東京地裁・大阪地裁・名古屋地裁の三庁により出された
「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同宣言」
(平成11年11月22日)があります。

「幼児、生徒、学生」原則として「全年齢平均賃金」を基礎収入とする

とされており、実務上もこのように判断されることが通常と思われます。

したがって、基本的に年少者の基礎収入については「全年齢平均賃金」を基礎収入とされます。

3. 男女間の賃金格差について

悩む男女

社会情勢の変化により、女子の社会進出が進んでいる昨今においても、男女間で賃金に差があるのが現状です。

以下の表のとおり、令和元年の平均賃金は、
男女全年齢で500万6900円、
男子全年齢で560万9700円、
女子全年齢で388万100円
です。

【令和元年賃金センサス】

A:男女全年齢平均賃金 B:男子全年齢平均賃金 C:女子全年齢平均賃金
500万6,900円 560万9,700円 388万100円

2で述べたように全年齢の平均賃金を用いるとしても、

女子についてC:女子全年齢平均賃金を用いた場合、男子の場合と比べて相当な差が出てしまいます。

この点については、裁判例において

裁判所

「性別は個々の年少者の備える多くの属性の一つであるにすぎないのであって,
他の属性をすべて無視して、統計的数値の得られやすい性別という属性のみを採り上げることは、
収入という点での年少者の将来の可能性を予測する方法として合理的であるとは到底考えられず、
性別による合理的な理由のない差別である」
とした上で、

「男女を併せた全労働者の平均賃金を用いるのが合理的」
(東京高裁平成13年8月20日判タ1092号241頁)

として、A:男女全年齢の平均賃金を基礎収入とした逸失利益を認めました。

この裁判例のように、女子の年少者については、
A:男女全年齢の平均賃金を基礎収入として判断することが多いです。

教え合う男女

女子の年少者は、年齢にかかわらずスキルや就労環境等により、男子と同様の条件で就労する可能性もあります。
そのことを踏まえれば、現在の社会情勢に合致した判断と言えると思われます。

もっとも、女子の年少者についてA:男女全年齢平均賃金を用いた場合、
男子の年少者についてB:男子全年齢平均賃金を用いた場合に比べて差が出てしまいます。

そこで、男女間の格差を是正するために
B:男子全年齢平均賃金を使用する場合の生活費控除率は50%、
A:男女全年齢平均賃金を使用する場合の生活費控除率は45%

として、男女間の格差を解消する工夫がなされています。

4. 高等学校卒業以後の場合

なお、3でご紹介した東京高裁の判例は、事故当時11歳の年少女子についての判断です。

高等学校卒業までか、少なくとも義務教育を修了するまでの女子年少者については、逸失利益算定の基礎収入として賃金センサスの女子労働者の平均賃金を用いることは合理性を欠く

と述べており、高等学校卒業後の大学生等の未就労者についても当然に当てはめるものではありません。

キャンパス風景

三庁共同宣言においても、「大学生」については「学歴別平均賃金の採用も考慮する」とされています。

大学や短大、専門学校等の進学先に応じて、学歴に応じた女子の平均賃金を用いている裁判例もあります。

したがって、具体的な事情においてどの基礎収入を用いるか否かについては慎重に判断をする必要があります。

   
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