岡崎事務所ブログ

入居者の自殺と法的対応

弁護士 大野貴央

1.所有する物件が「事故物件」になってしまった

空き部屋

賃貸アパートの入居者が居室内で自殺をしてしまった場合、居室が遺体で汚損されてしまったために、原状回復に多大な費用を要することがあります。

また、自殺の現場となった居室は、いわゆる「事故物件」として扱われ、将来にわたり賃料を減額せざるを得ず、そもそも借り手が居なくなってしまう事態も考えられます。

入居者の自殺により上記のような損害が生じた場合、オーナーはどのような法的対応を取り得るのでしょうか。

2.入居者の法的責任

そもそも、何らかの理由で自殺に至ってしまった入居者の遺族や連帯保証人に対し、法的責任を追及することはできるのでしょうか。

アパートの入居者は、賃貸借契約上、

賃貸目的物である居室を、善良な管理者と同様の 注意義務(いわゆる善管注意義務)をもって使用する義務

があります(民法400条)。

入居者の「善管注意義務」の対象に、

居室を物理的に損傷しないようにすること

は当然含まれます。

もし、入居者が居室内で自殺をすれば、これにより心理的な嫌悪感が生じます。一定期間賃貸に出すことができず、仮に賃貸できたとしても賃料を下げざるを得なくなることは常識的に考えて明らかといえます。

相談

また、入居者に「居室内で自殺をしないよう求めること」が過大な負担になるともいえません。

以上の理由から、裁判例では、

アパートの入居者が居室内で自殺をした場合、善管注意義務違反となる。法的因果関係が認められる範囲で、その損害を賠償する責任を負うことになる

と判示しています(東京地判H19.8.10等)。

したがって、アパートのオーナーは、

・自殺した入居者の権利義務関係を相続した遺族
・賃貸借契約上の連帯保証人

などに対して、責任追及を行うことができます。

3.賠償を求めることができる範囲

裁判所

前記のとおり、アパートのオーナーは、自殺した入居者の遺族や連帯保証人に対し、法的因果関係(相当因果関係といいます)が認められる範囲で生じた損害の賠償を求めることができます。

具体的にはどの範囲の損害まで賠償が認められるのでしょうか。

居室の原状回復

まず居室の原状回復に要した費用ついてです。

賃貸借契約上、入居者は当然に居室を原状回復して返還する義務を負います。

オーナーは入居者の遺族、連帯保証人に対し、原状回復費用を請求できます。

逸失利益

次に、事故物件を一定期間貸し出せなくなったことによる

・賃料相当額の損害


・将来の賃料を減額した場合に生じる損害(逸失利益)

などについて、裁判例では次のように判示しています。

すなわち、事故物件を賃貸するにあたって、宅地建物取引業者(仲介人)は、賃借希望者に対し、前居住者の自殺という事情を告知する義務を負うため、告知の結果、

・事故物件を第三者に賃貸し得ないことによる賃料相当額、
及び
・賃貸したとしても本来であれば設定することができた賃料と減額した賃料との差額相当額

も、逸失利益として、入居者の自殺と相当因果関係があり、損害賠償を請求できる

とされています(東京地判H22.9.2)。

なお、賃貸借不能期間及び賃料減額期間については、物件の立地条件や利用目的、使用状況、事故の重大性及び世間へ与えた影響等、様々な要素が考慮されて決まってくるものと考えられます。

賃料が減額されてしまった

では、自殺のあった居室の隣室の入居者から、賃料の減額を求められた場合はどうでしょうか。

実務上、心理的嫌悪感から、自殺のあった居室の隣室の入居者が退去してしまったり、賃料の減額を求められることはよくあるようです。

この点、前掲の裁判例では、

自殺のあった居室以外の居室の賃貸に、困難を生じるとは認められず、逸失利益は認められない

としました。

また、

隣室に関して現実に賃料の減収が生じているとしても、入居者の自殺と相当因果関係のある損害とは認められない

として、隣室の賃料減額分の損害賠償請求を否定しています。
(東京地判H19.8.10)

部屋の隅

同裁判例では、自殺のあった物件が都市部の単身者物件でした。

その立地からか、「自殺のあった居室以外の居室」についてまで「賃貸が困難となると認められない」と判断しています。

もしそれが、「世間の注目を集めるような事件」ならば、話は別かもしれません。

・物件の立地条件
・事故の重大性及び世間へ与えた影響等の事情

によっては、結論が変わってくる可能性もあります。

4.おわりに

腕を組む男性

入居者が自殺してしまった場合、オーナーには多大な損害が生じます。

一方で自殺者の遺族へ請求をしてよいものかという葛藤も生じるものと思われます。

しかし現実に損害が生じているのであれば、法的に適正な賠償を請求することは間違ったことではありません。

同様のケースでお悩みのオーナー様は、ぜひ一度、弁護士へ相談いただければと思います。

   
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