岡崎事務所ブログ

婚姻費用の分担請求 住宅ローンの支払いを一方が負担している場合の考え方について

はじめに

今回は、婚姻費用分担請求と住宅ローンの支払いとの関係についてご説明したいと思います。

婚姻費用分担請求についてしばしば問題となるのが、住宅ローンの支払いを一方が負担している場合に、そのローンの支払を婚姻費用算定にあたって考慮できるのか、という問題です。

例えば、実際の相談では、

妻:「夫が自宅から出ていき、夫から婚姻費用を受領しています。しかし、私が夫に代わって住宅ローンの支払いをしているため生活が苦しいです。もっと婚姻費用を請求できないでしょうか。」
(以下、「事例1」とします。)

夫:「妻との関係が悪化して自宅を出て、今はアパートを借りて暮らしています。私は自宅の住宅ローンも毎月支払っています。妻に婚姻費用を支払いながらアパートの賃料の支払いと住宅ローンの支払いもしなければならず、毎月の負担が大きいです。婚姻費用額を減額できないでしょうか。」
(以下、「事例2」とします。)

等があります。

このように、一方が住宅ローンの支払いを負担している場合の婚姻費用についてはどのように考えられるでしょうか。

住宅ローン支払いの位置づけ

住居費負担の側面と資産形成の側面

住居費負担の側面
住宅ローンを支払っているからこそその住宅に住み続けることができるという意味で、住宅ローンの支払いには住居費負担という側面があります。

資産形成の側面
住宅ローンの支払いが完了した場合、その住宅は名義人自身の負担付きのない財産として価値を存続させることができます。この意味で、住宅ローンの支払いは資産形成の側面をも有しています。

基本的立場

そして、住宅ローンの支払いは、(1)で述べた②資産形成の側面があることから、基本的には婚姻費用の場面では考慮せずに財産分与の場面で考慮すべきと考えられています。

婚姻費用分担請求において考慮される場面

原則―算定表通りの額で判断される
婚姻費用額は、基本的には権利者と義務者の年収を前提に算定表に従い判断されます。

例外―算定表通りでは著しく公平を害する場合には修正される
しかし、算定表通りに婚姻費用額を算出したのでは著しく公平を害するような事情がある場合には、公平の見地から婚姻費用額の修正が行われる場合があります。
婚姻費用額の修正は、算定表通りに考えることが公平か否かという観点から判断するわけです。

住宅ローンの支払と婚姻費用額の修正について

以上を前提に、事例1と事例2の場合において婚姻費用額を修正できるのかについて見ていきます。

なお、事例1及び事例2では、夫が妻に婚姻費用の支払い義務があることを前提とします。

妻(権利者)が自宅に居住し、妻(権利者)が住宅ローンを支払っている場合

ア 原則―考慮されない。
妻が住宅ローンを負担している場合で、その住宅の名義が夫のものであったとしても、原則として、妻が住宅ローンを支払っていることにより、妻の受領する婚姻費用額を増額する事由にはなりません。
妻が夫名義の住宅の資産形成に貢献していることになるので、資産形成の側面を重視して、婚姻費用ではなく財産分与で考慮されることになります。

イ 裁判例
同じ様な状況において妻が婚姻費用額に住宅ローンの支払分を含めた額を主張した事例において、裁判例では、「住宅ローンの支払は、夫婦財産形成の意味合いが強く、本来的には離婚の際の財産分与の中で清算するのが相当であって、婚姻費用とは性質を異にするものであるから、原則として、婚姻費用の分担額にその支払額を加算することは適切ではなく、当事者間で住宅ローン分を婚姻費用に含めて支払う旨の合意があるなど特別の事情がある場合に限り、義務者(=夫)にこれを加算した額の支払いを命じることが許される」(大阪高決平成20年1月31日)としています。
このように、夫婦間で住宅ローン分を婚姻費用に含めて支払うという合意がない限り、妻の住宅ローンの支払は考慮はされません。

妻(権利者)が自宅に居住し、夫(義務者)が住宅ローンを支払っている場合—事例2の場合

ア 考慮される場合
この場合、妻に一定程度の収入があれば、その収入に見合う住居費用分については差し引くことができる可能性があります。
これは、婚姻費用額を算出するにあたって、妻に住居関係費を留保するように計算されているところ、住居関係費を留保されているにもかかわらず、妻が全く住居関係費を支出しない理由はないとの考えに基づきます。
もっとも、婚姻費用額を差し引くとしても、その額は住宅ローンの支払い分全額ではなく、妻の収入を前提とした公平な額に限られる点に注意が必要です。

イ 考慮されない場合
しかし、以下の事情がある場合には夫のローンの支払は考慮されません。

妻の収入が無収入か非常に低い場合
妻の収入が全くないか非常に低い場合には、婚姻費用額算定にあたって、妻に住居関係費が留保されないことになります。
そのため、この場合には、婚姻費用額を減額することはできません。

夫の責任が大きい場合
夫婦が別居に至って原因が専ら夫にある場合(例えば、夫が不倫をして家を出ていったような場合)には、夫が自分からこのような状況を作出しておきながら婚姻費用額の減額を求めるのは信義則に反するといえます。
したがって、夫の責任が大きい場合には、婚姻費用額を減額することはできません。

その他の事情の場合
以上のような事例の他にも、住宅ローンの支払を巡っては、様々なケースが考えられます。
今回ご紹介した事例以外で婚姻費用額の決定において住宅ローンの支払いが問題となった場合にも、住宅ローンの資産形成の側面や、夫婦間の公平等を考慮しながら決定されるものといえます。

最後に

今回は、2つの事例を取り上げて、住宅ローンの支払いを一方が負担している場合の婚姻費用額の増減について、裁判例や実務上の運用を前提にご説明しました。

しかし、婚姻費用額は当事者の合意があれば合意された額を請求することも可能ですし、今回ご紹介した考え方以外にも色々な考え方をすることもできます。

したがいまして、今回ご紹介した考え方は絶対的なものではありません。

婚姻費用額のことでお困りの方がいらっしゃいましたら、一度ご相談することをおすすめいたします。

 

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