岡崎事務所ブログ

聴力障害の後遺障害について

道路

Q 事故後に片耳が聞こえにくくなり耳鳴りもするようになりました。
しかし相手方保険会社は、「事故との因果関係が不明である」として、治療費の一括対応をしてもらえません。
今後どのようにしたらよいでしょうか。
また聞こえにくさや耳鳴りは後遺障害認定されるのでしょうか。
A 事故との因果関係の問題が生じるため、直ちに純音聴力検査等の検査を行うべきです。
そして事故との因果関係があることを主張立証して、相手方保険会社に一括対応してもらう又は自賠責保険に被害者請求をすることが考えられます。
また難聴や耳鳴りは、その部位や程度により後遺障害認定がなされる可能性があります。

【解説】

難聴について

医師説明

1. 後遺障害認定基準について

聴覚障害が発生した場合、下記の図のとおり症状の程度とその部位(片耳か両耳か)により、

  • 両耳の場合後遺障害4級3号から11級5号
  • 片耳の場合後遺障害9級9号から14級3号
まで認定される可能性があります。

両耳の聴力障害
4級3号 両耳の聴力を全く失ったもの
6級3号 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
6級4号 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
7級2号 両耳聴力が40センチメートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの
7級3号 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
9級7号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声をかいすることができない程度になったもの
9級8号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
10級5号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
11級5号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
1耳の聴力障害
9級9号 1耳の聴力を全く失ったもの
10級6号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
11級6号 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
14級3号 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
耳殻の欠損
12級4号 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの

2. 検査方法について

難聴の検査方法は、

  • ① 純音聴力検査
及び
  • ② 語音聴力検査
により行うこととされています。

具体的な方法は、
① 純音聴力検査については
日本聴覚医学会制定の「聴覚検査法(1990)」により行うこと、

② 語音聴力検査については
日本オージオロジー学会制定の「標準聴力検査法 Ⅱ語音による聴力検査」により行うべきこととされています。

診察室入口

① 純音聴力検査

オージオメータと呼ばれる聴覚検査機器を用いて、単一周波数からなる純音の聞こえ具合を検査するものです。

  • A(周波数500ヘルツ)
  • B(周波数1000ヘルツ)
  • C(周波数2000ヘルツ)
  • D(周波数4000ヘルツ)
の音に対する平均聴力レベルを測定します。

平均聴力レベルの測定は
(A+2B+2C+D)÷6により算出します(6分式)

純音聴力検査による聴力検査は3回行い(検査と検査の間は7日程度空ける)、2回目と3回目の測定値の平均鈍音聴覚レベルの平均の数値により後遺障害該当性が判断されます。

② 語音聴力検査

語音聴力検査とは、日常に使用する語音を用いてその聞き取りやすさを検査するものです。

この検査もオージオメータを使用して語音の検査を行います。

ヘッドホンから聞こえてくる語音を回答すると、その正答率が%表示されます。
検査結果が適正と判断できる場合には、検査は1回のみでもよいとされます。

以上の2つの検査により、後遺障害該当性が判断されます。

一耳聴力
90dB以上 80dB以上
90dB未満
70dB以上
80dB未満
60dB以上
70dB未満
50dB以上
60dB未満
40dB以上
50dB未満
一耳聴力 90dB以上 4級の3 6級の3の2 7級の2の2 9級の6の3
80dB以上
90dB未満
6級の3
70dB以上
80dB未満
6級の3の2 7級の2
60dB以上
70dB未満
7級の2の2 9級の6の2
50dB以上
60dB未満
9級の6の3 10級の3の2
40dB以上
50dB未満
11級の3の3

両耳聴力
90dB以上 80dB以上
90dB未満
70dB以上
80dB未満
60dB以上
70dB未満
50dB以上
60dB未満
40dB以上
50dB未満
最高明瞭度 30%以下 4級の3 6級の3 10級の3の2
50%以下 7級の2
70%以下 9級の6の2

例えば、両耳の難聴による後遺障害は、

  • ① 両耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの又は両耳の平均鈍音レベルが80dB以上
であり、かつ
  • ② 最高明瞭度が30%以下のものは「両耳の聴力を失ったもの」
として後遺障害4級3号に該当することになります。

また、片耳の平均純音聴力レベルが40dB以上70未満であれば後遺障害14級3号に該当することになります。

笑顔の医者

必要な検査を行っていない場合には、そもそもその難聴の程度を客観的に表すことができませんし、事故から長期間経過した後で検査をした場合には因果関係が否定される可能性も高まってきます。

したがって、難聴が発生した場合にはひとまずすぐに検査を受けることが必要です。

また、事故との因果関係については担当医師の見解等も踏まえて、場合によっては医師作成の意見書の作成を依頼した方が良いケースもありえます。

耳鳴りについて

悩む男性

1. 後遺障害基準について

耳鳴りの場合、
「耳鳴りに係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴りが常時あると評価できるもの」は、後遺障害12級相当、

「難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの」は、後遺障害14級相当と判断されます。

この「難聴に伴い」という場合の「難聴」は、前述した難聴に伴う後遺障害14級(平均鈍音聴力レベルが40dB以上70未満)に満たない(すなわち平均鈍音聴力レベルが40dB未満)場合であっても、耳鳴りが存在すると思われる純音聴力レベルが他の純音聴力レベルと比較して低下している場合をいいます。

2. 検査方法について

ピッチマッチ検査やラウドネス・バランス検査を行って耳鳴りの大きさを調べます。

因果関係に関する裁判例

裁判所

大津地判平成9年1月31日

  • 事故直後に頸部痛腰痛の他に耳鳴りがして診察を受けた。
  • 症状固定時点でも「耳鳴りが強い」という自覚症状を訴えていた。
  • 事故後徐々に耳が聞こえなくなった。
  • 事故後5か月経過時点で、自ら補聴器を購入した。
  • その後2年以上に渡り30回耳鳴り、難聴の通院治療を受けていた
事案

において、

(本件事故の態様、原告の負傷部位・程度、難聴を訴えた時期、難聴に対する治療を受けるに至つた経過、本件事故前の状態、既往歴等)をまとめると、原告は本件事故により頚部捻挫、腰椎捻挫の傷害を被り、これにともなう外傷性頚部症候群の愁訴としての「眩暈、耳鳴り、難聴」の症状を呈し、更に難聴症状の発現へと辿つたものと認められるから、原告の両側感心音性質難聴は本件事故によつて発生したものと認めるのが相当である。

として難聴と事故との因果関係を肯定しました。

まとめ

ナースステーション

難聴や耳鳴については事故から時間が経過してから発症するケースも多く、事故との因果関係が争われるケースが多いと思われます。

また、外傷だけでなく心因的な要因もかかわっていることもあり、仮に因果関係が肯定されても、本人の心因による影響があるものとして素因減額されるケースもあります。

難聴や耳鳴が発生した場合にはすぐに必要な検査を受け、担当医にも協力をしてもらいながら重要な資料・証拠をきちんと集めていくことが重要であると思われます。

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