岡崎事務所ブログ

自賠法3条に基づく運行供用者責任についてー他人性の要件

弁護士 田村淳

今回は、自賠法3条に基づく運行供用者責任のうち、他人性の要件についてご説明いたします。

1 他人性の要件の意義

破損した車

自賠法3条にいう「他人」とは、一般に運行供用者及び運転者運転補助者以外の者を言うと解されています。

運行供用者は、運行に対する支配(及び運行による利益の享受)の観点から判断されるところ、運行支配を有する運行供用者は、事故発生を防止すべき立場にあることから、「他人」に該当するとして自賠法により救済することは望ましくないと考えられます。

もっとも、運行支配の程度は直接的なものから間接的なものまで程度が異なるものです。

そうすると、運行支配が間接的・潜在的にとどまる運行供用者についても一律に自賠法による救済を否定してよいのか等の問題がでてきます。

したがって、他人性の要件をめぐり多く争いになっているところでもあります。以下、典型的な事例に即して他人性の要件についてご説明いたします。

2 問題となる事例

(1)共同運行供用者

  1.  共同運行供用者とは
  2. 共同運行供用者とは、1台の自動車について複数の運行供用者が存在する場合をいいます。

    自動車の所有者が友人に運転を依頼し、所有者もその自動車に同乗する場合、所有者が運行供用者に該当するだけでなく、運転の依頼を受けた友人も運行支配を有することから運行供用者に該当します。

    このように1台の自動車の運行について、複数の運行供用者が存在することが想定されます。

    共同運行供用者の責任については、主に①非同乗型、②同乗型、③混合型に類型分けして考えることができます。

  3.  非同乗型の場合
  4. 自動車の所有者である会社から自動車を借受けた取締役(被害者)が、従業員に運転を交代してもらい後部座席に同乗中に交通事故に遭ったという事案(最判S50.11.4 民集29巻10号1501頁)において、取締役は、会社に対して運行供用者責任を追及できるでしょうか。

    当該事案においては、取締役の他人性は否定されています。

    会社の支配の程度が「間接的・潜在的・抽象的」であるのに対し、取締役の支配の程度が「直接的・顕在的・具体的」であることが理由です。

    したがって、同乗型の場合に他人性を主張するためには他の共同運供用者との対比において支配の程度が間接的・潜在的・抽象的であることが必要であるといえます。

  5.  同乗型の場合
  6. (ア)「特段の事情」がない限り他人性を主張できない

    自動車の所有者が友人に運転を委ね、友人が運転中に事故が起きた事案(最判S57.11.26 民集36巻11号2318頁)において、「特段の事情がない限り所有者は友人との関係で他人性を主張できないと判断されました。

    この事案では、所有者は、「いつでも友人に運転の交替を命じ、あるいは、その運転につき具体的に指示することができる立場にあった」ことから、「自動車の具体的運行に対する所有者の支配の程度は、運転していた友人のそれに比し優るとも劣らなかった」ということが指摘されています。

    (イ)「特段の事情」の有無について

    • 上記事案の場合

    • 上記事案でも、「友人が所有者の運行支配に服さず所有者の指示を守らなかった等の特段の事情がある場合」には他人性を主張できることが認められています。

      したがって、同乗型において他人性を主張する場合には、このような特段の事情を主張立証する必要があります。

    •  代行運転の場合

    • 所有者が代行運転業者に依頼し、同乗中に事故が起きた事案(最判H9.10.31 民集51巻9号3962頁)において、所有者は代行運転業者に対して他人性を主張できると判断されました。

      この事案では、自動車の運行による事故の発生を防止する中心的な責任は代行業者にあり、所有者の運行支配は代行業者のものに比べて間接的補助的なものであるとして、「特段の事情」があると判断されました。

  7.  混合型の場合
  8. 混合型は、車内の被害者との関係で、同乗していた共同運行供用者と同乗していない共同運行供用者がいる場合です。

    混合型の場合には、同乗者との関係では同乗型、同乗していない者との関係では非同乗型の判断枠組みにより判断することになります。

(2)同乗中の配偶者

夫が運転中に同乗していた妻が受傷した場合に、妻は夫との関係で他人性を主張できるでしょうか。

夫が自らの通勤目的等のために購入し、専ら運転を行い、自動車の維持費をすべて負担し、他方で妻は運転免許を持たず運転補助行為もしていなかったという事案(最判S47.5.30 民集26巻4号898頁)では、妻の他人性が認められました。

(3)好意(無償)同乗者

所有者の好意により無償で同乗中に事故が起き受傷した場合同乗した人は所有者との関係で他人性が認められると考えられています。

もっとも、同乗に至った経緯や事故に至った経緯も様々考えられます。好意で同乗させた場合に、所有者が常に全面的に賠償義務を負うことは不都合な場合があります。

そのため、単なる同乗か、所有者が飲酒運転等で事故の発生する危険性があることを承知で同乗したか等の事情により、過失相殺の適用又は類推適用により責任を一部制限することがあります。

3 最後に

 

以上のように、他人性の要件は事情により判断が分かれうるところですが、判例の蓄積によりある程度類型化して検討することが可能です。

他人性の要件が問題となった場合には該当する類型及び過去の重要な判例と照らし合わせて判断することになると思われます。

   
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