交通事故により傷害を受けた場合の請求項目については既にご紹介させていただきました。
交通事故に遭われた方の中には、後遺障害等級1級や2級等の重度の後遺障害が残存してしまう方もいらっしゃいます。(重度後遺障害を負った方については、将来かかる費用や生活に与える影響が重大であることから、適正な賠償を得られなければ生活が不安定となり、さらに幸な結果となってしまう可能性があります。)
したがって、重度の後遺障害が残存するような被害に遭われた方にとって適性額の賠償がなされることは非常に重要です。
今回は、事故により重度後遺障害が残存した場合に争いとなりやすい争点についてご紹介いたします。
1. 付添看護費
重大な事故に遭った場合、危篤状態や長期間意識不明となることがあります。意識が回復した後も、頭部や身体全体を強打をしていることからベッド上での安静が必須となり、堪えがたい苦痛に長期間苦しめられることが多くあります。このような被害に遭った被害者を励まし、看護するため、ご家族の方が毎日病院へ通い付き添うケースが多くあります。
このような場合、ご家族の方が付き添った部分について、付添看護費用を請求することになります。しかし、保険会社では近親者の方の付添については、「情愛の範疇」の行為であるとして付添看護費用を認めないケースがあります。
付添看護費用が認められるためには、
①付添看護の必要性 ②実際の付添い看護の事実 ③付添看護料
が認められる必要があります。
①付添看護の必要性
付添看護の必要性については、医師の指示がある場合には認められますが、現在の医療制度では完全介護体制がとられており、基本的には病院の医師及び看護師で対応可能であることから、特に医師から指示がないことも多くあります。
裁判例では、重篤な脳損傷や上肢・下肢の骨折等で身体の自由がきかない場合に認めるケースが多いです。このような怪我を負った場合、自由に体が動かせませんし、骨折をしている場合には骨癒合が安定するまでベッド上での絶対安静とされることが多く、食事や排せつ、体位変換等について他人の手を借りる必要性が高いためです。
被害者の当時の状況は看護記録からある程度知ることもできますが、毎日の細かい症状やご家族の方の看護の状況まで詳しく書いてありません。
したがって、看護記録日誌等を作成しておくことが非常に重要となります。実際に、ご家族の方が看護記録日誌をつけていたことで、当時の状況を詳しく説明でき、交渉を有利に進められることも多くあります。
②実際の付添い看護の事実
付添の必要性があるだけでなく、実際に付添をした事実がなければ付添看護料は認められません。証拠としては、①同様に看護記録日誌が考えられます。また、病院の駐車場の領収証や病院までの公共交通機関の領収証等もあった方が良いでしょう。
少しの時間滞在していただけでは認められず、長時間病院へ滞在していた事実を立証する必要があるからです。病院によっては駐車場代を無料にするため等の理由から家族付添許可証を発行することがあるため、許可証が発行されている場合には重要な資料となります。
③付添看護料
入院付添の場合には、1日あたり5500円から7000円の間で認められることが多い です。また、付添看護をしたご家族の方が有職者であった場合、その方の休業損害相当分が認められることもあります。
したがって、有職者の方の場合には有休使用や休職したことについて休業損害証明書を作成した方が良いでしょう。
2. 将来介護費用
重度後遺障害が残存した場合には、将来介護費用を請求します。将来介護費用が認められるかは状況により変わりますが、一般的には後遺障害等級1級や2級の場合には認められます。
将来介護費用は、想定の支出額に基づいた相当額が認められます。したがって、想定の支出額について詳細に検討する必要があります。事故後の身体の状態や家庭の状況により、在宅介護なのか施設介護等も変わってくるため、事故後の実際の介護の状況も踏まえながら、将来にわたってかかるであろう介護費用を算出していく必要があります。
一般的には事故後の介護体制の状況から、毎月かかる費用を積算し、その費用を踏まえて想定介護費用を積算することになります。
なお、障害者福祉制度による給付がある場合には、当該給付は社会保障の性質を有する給付であることから、損害には填補されないと考えることが通常です。
したがって、このような社会保障給付により自己負担部分がない場合であっても、当該給付部分を含めて請求することになりますので、注意が必要です。
3. 自宅改造費・将来の器具代等
事故後の介護体制を整えるために、風呂場やトイレ等自宅を改造する必要が出てくる場合があります。自宅の改造費については、金額が高額になる場合も多いため、その必要性及び相当性については争いになることもあります。
したがって、介護の必要性についての資料として介護職員等から介護の状況や自宅介護の場合の改造が必要となる具体的な状況について書面を出してもらう等の工夫も必要です。
また、介護用ベッドや車いす、介護福祉車両、その他補助具が必要となった場合、その費用を請求することになります。これらは消耗品であるため、将来の買替費用を含めて請求する必要があるので注意が必要です。
4. まとめ
重度後遺障害が残存した場合、請求する金額も高額になることから、法的な問題点が生じることが多いです。今回ご紹介したもの以外にも、実際には争いになることは多岐にわたります。
相手方が金額を争ってきた場合には、その金額を基礎づける事実については、請求する被害者側が立証する必要がありますが、いざ必要な場面で資料がないということもあります。
適正な賠償額を得るためには、事前の証拠収集が大事になります。 事故後の対応で負担も大きいと思いますが、早めに専門家にご相談されることが望ましいといえます。