岡崎事務所ブログ

被相続人の作成した遺言書が無効の場合について

【質問】

被相続人の作成した自筆証書遺言が法定の要件を満たしておらず無効である場合に、どのような対応ができるでしょうか。

【想定事例】

被相続人の相続人はAさんとBさんの2人。
被相続人の死亡後、遺言書が発見されました。

遺言書には、所有不動産をAさんに残す旨の内容が記載され、被相続人の署名及び押印がありましたが、日付の記載がありませんでした

AさんがBさんに対して遺言書があるため不動産を取得する権利があると伝えましたが、Bさんからは、「遺言書に日付が記入しておらず無効である。よって、自分にも不動産を取得する権利がある」と反論されました。

この場合に、Aさんは遺言書の内容に基づく主張をすることができるのでしょうか。

通帳

【回答】

1. 結論

法定の要件を満たさない遺言書は無効です。しかし、死因贈与契約の成立が認められる可能性があります。

2. 解説

⑴ 自筆証書遺言書の有効性

自筆証書遺言は、①全文、日付、氏名を自書し、押印しなければ効力が認められません(民法968条)。
本事例では、日付の記載がないため、法定の要件を満たさず、無効となります。

⑵ 死因贈与契約該当性

㈠ 死因贈与契約とは

死因贈与契約とは、贈与者の死亡により効力が発生する贈与契約をいいます。

遺言書は、被相続人が、自分が亡くなった後に誰に何を残すのかを記載するものです。遺産を残す文書(遺言書)を作成したということは、遺産を贈与する意思もあると解釈する余地もあります。

したがって、遺言書自体が法定の要件を満たさないで無効であるとしても、事情により死因贈与契約として解釈される余地があります。

㈡ 死因贈与契約として認められるための条件

死因贈与契約は、あくまでも契約です。したがって、贈与者の贈与の意思表示と受贈者の贈与を受けるという意思表示があって初めて契約として成立します。

㈢ 裁判例の検討
❶ 仙台地判平成4年3月26日

この裁判例では、要件を満たしていない遺言書について、当該書面が孫に全財産を取得させることを目的として遺言として作成したものであることを前提に、死因贈与の意思表示の趣旨を含む書面といえるかについて以下のとおり判断しています。

「本件書面は、遺言書以外のなにものでもなく、その作成の状況、保管の経緯、原告等の親族に呈示された時期などの事情を加えて斟酌しても、死因贈与の意思表示の趣旨を含むとは認められず、また、それに対する原告の承諾の事実も認められない。したがって、訴外太郎から原告に対する死因贈与は認められないのであるから、原告の請求は、その余の判断をするまでもなく、すべて理由がない。

❷ 東京地判昭和56年8月3日

この裁判例では、要件を満たしていない遺言書について、以下のように判断しています。

「仮に本件遺言書が自筆証書遺言としての要式性を欠くものとして無効であるとしても、〇〇が、昭和五一年三月一七日、自分が死亡した場合には自分の財産の二分の一を原告に贈与する意思を表示したものであり、原告はこの申し出を受け入れたものであると認めるのが相当である。

なお、本件遺言書には、〇〇の財産のうちのどれを原告に贈与するのかについての具体的記載はなされていないが、これは、〇〇が特定の財産ではなく自分の全財産の二分の一を原告に贈与する意思を有していたから、ことさら財産の特定をしなかつたものと解するのが相当である。」

❸ 検討

裁判例では、被相続人が遺言書を作成した経緯や保管の状況等を検討した上で、①被相続人につき死因贈与の意思表示が認められるか②受贈者につき承諾をしていたかということを判断しています。

㈣ 本事例について

本件の想定事例でも、被相続人が書面(遺言書のつもりで書いた書面)を作成するに至った経緯や、その書面の保管状況等から生前贈与契約の成立が認められる可能性があります。

被相続人が死亡後に不動産をAさんに贈与するという意思が当該書面やその他の資料から認められ、Aさんが生前に当該書面を被相続人から呈示されていた場合には、①被相続人の死因贈与の意思と②受贈者の承諾が認められ、死因贈与契約が成立したと判断される可能性があります。

死因贈与契約が認められる場合には、Aさんは、Bさんに対して、遺言書に記載された内容を主張できることになります。

   
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