はじめに
令和8年9月8日、名古屋市では、台風第24号及び前線の影響による大雨が発生し、多くの住宅で浸水などの被害が生じました。
この大雨の影響で、令和8年10月5日時点では、名古屋市内の建物の半壊が184件、床上浸水が163件報告されており、建物被害認定調査の申請は850件を超えています。
近年、地震、台風、豪雨などの自然災害が全国各地で相次いでいます。
いつ、どこで災害が発生してもおかしくない状況といえるかもしれません。
もし大きな災害によって、住宅ローンが残っている自宅が倒壊したり、大規模な浸水被害を受けて住むことができなくなったりした場合、住宅ローンはどうなるのでしょうか。
1.自宅が被災しても住宅ローンはなくならない
まず注意しなければならないのは、地震や水害などによって自宅が倒壊したり、住めなくなったりしたとしても、住宅ローンが当然になくなるわけではないということです。
例えば、「住宅ローンが2,000万円残っているのに、自宅が被災して住めなくなってしまった」という場合でも、原則として、残っている住宅ローンを返済する義務はそのまま残ります。
さらに、新しい住居を確保するために新たな住宅ローンを組むことになれば、「被災した自宅の住宅ローン」と「新しい住宅の住宅ローン」の両方を負担しなければならない、いわゆる「二重ローン」の問題が生じることがあります。
2,まずは国や自治体の支援制度を確認しましょう
大規模な災害が発生した場合、国や都道府県、市町村などから、被災者の生活再建のための様々な支援制度が設けられることがあります。
そのため、自宅が被災した場合には、住宅ローンの問題だけを考えるのではなく、まず、自分が利用できる公的な支援制度がないかを確認することが重要です。
例えば、今回の令和8年9月8日の大雨について、名古屋市では、被災された方に対する様々な支援制度を案内しています。
具体的には、
- 被災者生活再建支援金
- 災害見舞金
- 災害援護資金の貸付け
- 被災した住宅の応急修理
- 市営住宅の一時使用
- 個人市民税・県民税、固定資産税・都市計画税等の減免
- 国民健康保険料や国民年金保険料等の減免・免除
- 上下水道料金に関する支援
などがあります。
【参考:名古屋市ホームページ】
令和8年9月8日の大雨により被害を受けられた方の住宅の応急修理について
被災者生活再建支援金の支給について(被災された方向け)
このような支援制度を利用することによって、生活再建のために必要となる自己負担を軽減できる可能性があります。
なお、支援制度によって、対象となる被害の程度、所得要件、申請期限などは異なります。また、同じような自然災害であっても、地域や災害の規模によって利用できる制度が異なることがあります。
そのため、被災した場合には、まず、お住まいの自治体のウェブサイトなどで最新の支援情報を確認することをお勧めします。
3.自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインとは
公的な支援制度を利用しても、住宅ローンなどの返済が困難となる場合があります。このような場合に検討することができる制度の一つが、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」です。
このガイドラインは、自然災害の影響によって住宅ローンや事業性ローンなどの返済が困難になった方について、自己破産などの法的倒産手続によらず、金融機関などとの合意によって債務整理を行い、生活や事業の再建を支援するための制度です。
対象となり得るのは、平成27年9月2日以降に災害救助法の適用を受けた自然災害の影響によって、それまで抱えていた住宅ローン、住宅のリフォームローン、事業性ローンなどを返済することができなくなった、または近い将来返済できなくなることが確実と見込まれる個人や個人事業者です。
【参考:政府広報オンライン】
大規模な自然災害でローンの返済が困難になったかたへ。「自然災害債務整理ガイドライン」をご利用ください。
4.災害救助法の適用の有無
「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を利用するためには、平成27年9月2日以降に災害救助法の適用を受けた自然災害の影響による被害であることが、要件の一つとなっています。
自然災害について災害救助法が適用されているか否かは、内閣府のホームページから確認することができます。
【参考:内閣府「災害救助法の適用状況」】
災害救助法の適用状況
例えば、今回の令和8年9月8日の大雨については、名古屋市全域に災害救助法が適用されています。
そのため、今回の大雨の影響によって住宅ローンなどの返済が困難になった方についても、その他の要件を満たせば、このガイドラインを利用できる可能性があります。
もっとも、災害救助法が適用された地域で被災したというだけで、当然に住宅ローンが免除されるわけではありません。
被災の状況、収入や資産、債務の状況などを踏まえ、ガイドラインを利用するための要件を満たしているかが個別に判断されます。
5.ガイドラインを利用するメリット
このガイドラインには、自己破産などの法的倒産手続と比較して、いくつかの特徴があります。
① 住宅ローンなどの減額・免除を受けられる可能性がある
金融機関との協議によって、住宅ローンなどの債務について、減額や免除を受けられる可能性があります。
ただし、災害に遭えば必ず借金が免除されるという制度ではありません。収入、資産、債務額、被災状況などを踏まえて、どのような債務整理が可能なのかを検討することになります。
② 一定の財産を手元に残せる可能性がある
被災者の生活再建を支援するという観点から、一定の財産を手元に残しながら債務整理ができる場合があります。
また、一定の要件の下では、被災した土地や建物を手元に残しながら債務整理をすることができる場合もあります。
③ 個人信用情報への登録を回避できる
ガイドラインに基づいて債務整理をした場合には、原則として、そのことを理由として個人信用情報に登録されません。
一般的な債務整理との大きな違いの一つです。
6.どのような場合に利用できるのか
ガイドラインを利用するためには、一定の要件を満たす必要があります。
主なものとして、
- 対象となる自然災害の影響によって住宅ローン等の返済が困難となったこと
- 破産手続などの法的倒産手続の要件に該当すること、または近い将来これに該当することが確実と見込まれること
- 債務整理を行うことについて相当の理由があること
- 金融機関に対して誠実に対応し、財産や債務の状況を適切に開示すること
などがあります。
したがって、「自然災害に遭った」というだけで、すべての方がガイドラインによる債務整理を利用できるわけではありません。
個々の収入や資産、住宅ローンの残額、被災の程度などを踏まえて検討する必要があります。
7.被災した場合には、利用できる制度を一つずつ確認しましょう
自然災害によって自宅が被災すると、
「自宅を修理するのか、建て直すのか」
「当面どこに住むのか」
「残っている住宅ローンをどうするのか」
「新たな住宅ローンを組む必要があるのか」
など、多くの問題を同時に考えなければなりません。
しかし、被災したからといって、直ちに自己破産などを選択しなければならないわけではありません。
まずは、国や自治体から受けられる支援がないかを確認することが大切です。
そして、公的な支援を利用しても住宅ローンなどの返済が難しい場合には、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を利用できないか検討するという方法があります。
また、住宅の修理や新たな借入れを行った後では、利用できる支援制度や選択肢に影響が生じる場合もあります。
被災後の生活再建や住宅ローンの返済に不安がある場合には、金融機関や自治体の窓口、弁護士などの専門家に早めに相談することをお勧めします。
【参考資料】
「大規模な自然災害でローンの返済が困難になったかたへ。「自然災害債務整理ガイドライン」をご利用ください。」
「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」
「令和8年9月8日の大雨で被災された方への支援について」










