ご相談者様の状況

- 依頼者:Aさん(20代男性・会社員)
事案
Aさんは、ある年の冬、自動車で勤務先へ向かう途中、交通事故に遭いました。
Aさんが優先道路を走行して交差点に差しかかったところ、右側から進入してきた相手方車両がAさんの車両に衝突しました。事故の衝撃は大きく、エアバッグが作動し、Aさんの車両は全損となりました。
Aさんは、頸椎捻挫、胸部及び膝の打撲などと診断され、複数の医療機関に通院しました。事故後しばらくは仕事を休み、その後も週2~3回程度の通院を続けていましたが、事故から数か月が経過しても、肩を上げたときの痛みや、咳をしたときの胸の痛みなどが残っていました。
そのような中、相手方の保険会社から、治療費の一括対応を終了し、後遺障害の申請をするよう勧められました。しかし、Aさんとしては症状が残っており、引き続き治療を受けたいと考えていました。
また、本件事故は勤務先へ向かう途中に起きたものでしたが、Aさんは労災保険の手続きをしておらず、通勤災害としてどのような対応を取ればよいのかも分からない状況でした。
そこでAさんは、治療を続けられるのか、労災保険を利用できるのか、今後の損害賠償請求や後遺障害申請をどのように進めればよいのかについて、弊所へ相談にいらっしゃいました。
※本記事に掲載している「相談時にお伝えした内容」は、ご相談時に確認できた事情や資料を前提とするものであり、当事務所が本記事をご覧の方の個別の事案について法的な見解を示すものではありません。事情によって判断や結論が異なる場合がありますので、具体的な事案については弁護士へご相談ください。
相談時にお伝えした内容
1 通勤災害として労災保険を利用できる可能性について
まず、事故が自宅から勤務先へ向かう通常の経路上で発生していることなどから、労災保険上の「通勤災害」に該当する可能性が高いと考えられることを説明しました。
交通事故の被害者であっても、事故が通勤中に発生した場合には、相手方の自動車保険だけでなく、労災保険を利用できることがあります。
そのため、Aさんには、事故が通勤途中に起きたことを病院へ伝えるとともに、勤務先に必要書類を確認し、労災保険の手続きを早めに進めるよう提案しました。
2 労災指定医療機関への通院について
労災保険を利用して治療を受ける場合には、通院先が労災保険指定医療機関であるかどうかによって、窓口での支払いや手続方法が異なることがあります。
労災保険指定医療機関では、所定の手続きを行うことにより、原則として窓口で治療費を負担せずに治療を受けることができます。そのため、現在の通院先が労災保険指定医療機関であるかを確認し、必要に応じて、労災保険による治療に対応している医療機関への通院も検討するよう説明しました。
なお、労災保険の対象となる治療については、通常の健康保険とは取扱いが異なります。医療機関や勤務先に事情を伝えないまま通院を続けると、後から治療費の精算や切替えの手続が必要になることもあるため、事故後の早い段階で確認することが大切です。
3 相手方保険会社による治療費の打切りについて
相手方保険会社が治療費の一括対応を終了したからといって、直ちに治療を終了しなければならないとは限りません。
治療を続ける必要があるか、いつ症状固定とするかは、症状の経過や医師の判断を踏まえて検討する必要があります。Aさんには、担当医へ現在の症状を具体的に伝え、今後も治療を続ける必要があるか、症状固定の時期をどのように考えているかを確認するよう説明しました。
その上で、相手方保険会社による治療費の対応が終了した後も治療が必要な場合には、労災保険による治療への切替えを検討することを提案しました。
4 後遺障害申請について
Aさんには左肩や胸の痛みが残っていましたが、相談時点では、医師から今後の治療方針や後遺障害の見込みについて十分な説明を受けていませんでした。
後遺障害の申請を行うためには、原則として、治療を続けても症状の改善が見込めない状態となった後に、医師に後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
もっとも、痛みが残っているというだけで、必ず後遺障害等級が認定されるわけではありません。事故直後から症状が継続しているか、適切な頻度で通院しているか、必要な検査を受けているか、症状の原因を医学的に説明できるかなども重要になります。
そこで、Aさんには、まず担当医へ現在の症状と治療の見通しを確認し、必要な検査や治療を受けた上で、適切な時期に後遺障害申請を検討することを説明しました。
担当弁護士の所感
Aさんは、相手方保険会社から治療費の一括対応を終了すると告げられたことをきっかけに、弊所へ相談にいらっしゃいました。もっとも、本件は通勤途中の事故であったため、事故後の早い段階から、労災保険の利用も視野に入れて対応することが望ましいケースでした。
交通事故に遭うと、まず相手方の自動車保険による対応を考える方が多いと思います。しかし、仕事中や通勤途中の事故では、労災保険を利用できる可能性があります。
労災保険を利用する場合には、勤務先への申請だけでなく、通院先が労災保険指定医療機関であるか、医療機関へどのように事故の事情を伝えるか、相手方保険会社の支払との調整をどうするかなど、確認すべき事項が複数あります。
また、後遺障害の申請を検討する場合も、治療が終わる直前になって初めて準備するのではなく、治療中から症状の経過や検査内容を確認しておくことが重要です。
通勤途中の交通事故では、相手方保険会社への損害賠償請求だけでなく、労災保険の申請、医療機関への連絡、治療費の取扱い、休業に関する補償など、複数の手続が関係します。
事故から時間が経過してから労災保険を利用しようとすると、これまでの治療費の取扱いや医療機関での手続が複雑になることがあります。また、後遺障害申請を検討する場合には、治療中の通院状況や医師への症状の伝え方も重要です。
そのため、相手方保険会社から治療費の打切りを告げられた後だけでなく、事故が通勤中に発生したと分かった段階で、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
「まだ相手方の保険会社が治療費を支払っているから」「労災になるか分からないから」と相談を先延ばしにする必要はありません。仕事中や通勤途中に交通事故に遭った場合には、事故後の治療や補償の選択肢を整理するためにも、できるだけ早い段階で弁護士へご相談ください。










