ご相談者様の状況
- 依頼者:Aさん(相談時18歳、事故時16歳)
- 職業:相談時は会社員、事故時は高校生
事案
Aさんは、高校2年生の頃、自転車で走行中、駐車場から出てきた車と衝突しました。鼻を骨折し、首も痛めましたが、懸命に治療に励みました。しかし、事故の結果、顔に傷が残ってしまい、後遺障害認定がされました。
相手方保険会社から障害賠償金額の提示がされましたが、額や後遺障害等級が適切なのか気になるとのことで、弊所に相談にいらっしゃいました。弁護士が間に入れば賠償額が上がる可能性があると考えられたため、受任に至りました。
解決までの道のり
後遺障害等級について
交通事故においては、交通事故の影響が身体に残ってしまった場合、「後遺障害」として認定されることがあります。後遺障害は重い順に1級~14級まであります。Aさんのように顔に傷が残った場合も、「外貌醜状」として、後遺障害の一つに挙げられます。
Aさんの場合は、「外貌に相当程度の醜状を残すもの」として9級が認定されていました。外貌に傷が残った障害については、一段上の7級「外貌に著しい醜状を残すもの」が認定される可能性があります。しかし、「外貌に著しい醜状を残すもの」と認められるためには、卵の大きさの傷跡があるか、10円玉の大きさの陥没が必要です。Aさんの場合は、そこまでの傷はなかったので、9級の認定は相当と考えられました。
賠償額について
後遺障害認定がされると、後遺障害が認定された分、100%の力が出せなくなったと考えられます。力が出せなくなった分を、「労働能力喪失率」といいます。この労働能力を喪失した分が、後遺障害による逸失利益として損害賠償額に計上されます。
簡単に言えば、もともと事故時に稼いでいた額(あるいは、稼げると考えられる額)×労働能力喪失率×労働能力を喪失した期間という式により、逸失利益を計算します。
9級の後遺障害が残った場合は、通常、労働能力が35%喪失したとされますが、外貌醜状の場合は、手や足の指を失った場合等と違って、動作が物理的に制限されるわけではありません。そのため、弁護士が入る前は、相手方保険会社は後遺障害による逸失利益は0円と提示してきました。
しかし、顔に傷を負うと、職業や職種に制限がかかったり、人との交流を控えるようになったりすることで、結果として労働能力に影響が出ることもあります(参考:外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会報告書、東京地判平成29年4月25日)。
Aさんは、モデル等容姿を武器にする仕事に就いていたわけではありませんが、電車に乗ると視線を感じる、取引先の方と会話をするときに視線を感じる、事故のことを知らない知人に傷のことを聞かれるたびに事故について話すことが必要になるなど、顔の傷によって日常生活上様々な影響が出ていました。Aさんの状況を思うと、とても逸失利益0円を呑むことはできません。
また、外貌醜状の裁判例においては、後遺障害による逸失利益が認められたものと認められていないものがあります。担当弁護士が約60件の裁判例を調べたところ、男性よりも女性の方が傾向として後遺障害による逸失利益が認められやすく、また後遺障害による逸失利益が認められたものでも、労働能力喪失率を下げたり、労働能力を喪失したとする期間を、定年までではなく10年程度に制限したりしたものがありました。
そのなかで、Aさんと同様、9級の外貌醜状が認定されたもののうち、事故時高校生で裁判時公務員の男性が、労働能力喪失率2.5%、労働能力喪失期間として67歳までを認められた事案と(東京地判平成29年4月25日)、事故当時専門学校生で現在は公務員の男性が、労働能力喪失率9%、労働能力喪失期間が67歳まで認められた事案(福岡高判平成30年12月19日)を見つけました。後者の裁判例は事故被害者につき、若年であるから転職の可能性があること、顔の傷により転職可能性が制限されたことを丁寧に認定していました。担当弁護士は、AさんとAさんのご両親と相談し、まず後者の裁判例に基づき、労働能力喪失率9%を主張し、もし相手方保険会社が拒むようなら、前者の裁判例に基づき、労働能力喪失率2.5%を主張することにしました。
相手方保険会社に対して、上記Aさんの現況を説明し、Aさんも若年であり、また時勢柄転職の可能性があるが、顔の傷を隠すために髪を伸ばさざるを得ず、職種が制限されること、エントリーシートに貼る証明写真には傷がくっきり写ってしまうこと等を述べ、労働能力喪失率を9%として賠償金を請求したところ、相手方保険会社は請求金額どおりの賠償額を支払うことに応じました。当初保険会社が提示した金額の約2倍の金額でした。
担当弁護士の所感
外貌醜状は物理的な動作制限がないため、逸失利益の主張が難しいです。今回は、裁判例を調べ、AさんおよびAさんの両親とコミュニケーションを密にとったことで、後遺障害逸失利益が相手方保険会社に認められたと考えます。依頼者の方と一緒に勝ち取った解決でした。
解決までに要した時間
受任から約5か月