ご相談者様の状況
- 依頼者Aさん 40代男性
- 相手方Bさん(Bさん加入の損保会社C社)
事案
Aさんは大型バイクを運転し、見通しのよい堤防上の道路を走行していたところ、左方の堤防脇道からBさん運転の自動車が突然進入してきて、切り返しをする為、Aさんの進路を塞ぐような形で停止しました。
Aさんは、Bさん車との衝突を避けるため、咄嗟に右方向へバイクの進路を変え、なんとか直接の衝突は避けられました。しかしAさんは、急な進路変更で傾いたバイクごと転倒し、大怪我を負ってしまいました。
Aさんは事故後、幸いにも後遺症なく怪我を回復することができましたが、事故状況について双方の意見が食い違い、示談交渉が難航しました。
相手方Bさんは、「Aさんの進路は塞いでいない」「Aさんのバイクが勝手に転んだだけ」と主張し、Bさん加入の損保会社C社からは、5:5の過失割合を提示されました。
Aさんとしては、脇道から突然進入してきたBさん車に道を塞がれたため、衝突を回避しようとして転倒してしまったのであり、Bさんの主張はとても受け入れられませんでした。
またC社から提示された過失割合5:5にも納得できず、弊所へ相談にいらっしゃいました。
解決内容
本件事故は、上記事故状況図のとおり、単純な交差点事故ではなく、脇道から進入した自動車が鋭角に左折しようとして道路上に停止したところ、右方から直進してきたバイクがこれを避けようとして非接触のまま転倒したという極めて特殊な事故類型でした。
依頼を受けた担当弁護士は、本件では大きく3つの問題があると考えました。
①まず本件では、Aさんが「Bさん車に道を塞がれた」と主張したのに対し、Bさんは「道は塞いでいない」と真っ向から反論しており、事故状況の主張に食い違いがありました。
②次に本件は、バイクが自動車と衝突せずに転倒してしまう非接触事故のため、Bさんが「Aさんのバイクが勝手に転んだだけ」と主張するように、
Bさんの運転行為とAさんの転倒との間の因果関係を全面的に争われる可能性がありました。
またいくつかの裁判例では、非接触事故であることを根拠としてバイクの回避措置に落ち度があると指摘し、バイク側に不利な過失割合を認定しているものがあり、
本件でも非接触事故であることがAさんの過失割合に不利に作用する可能性がありました。
③そして、本件事故現場のような道路形状の場合、単純な交差点事故に比べて裁判例の蓄積が少ないため、交渉のベースとなる過失割合の数値をどのように設定するか、一から検討しなければなりませんでした。
担当弁護士はこれらの問題を解決するため、まず実況見分調書を取り寄せ、
事故直後の当事者の言い分を基に警察官が作成した事故状況の資料を確認しました。
次に、実際の事故現場へ行き、実況見分調書の記載と照らし合わせながら、
事故当時の当事者の視認状況を再現・調査しました。
そうしたところ、実況見分調書に記載されたBさんの言い分を踏まえても、Bさん車はAさんバイクの進路を塞ぐような位置まで進入した可能性が高いことが分かりました。
また担当弁護士は、複数人で手分けして裁判例や非接触事故に関する論文を調査・検討し、本件でAさんバイクがとった回避措置に問題はなく、非接触事故であることを踏まえても、Bさん側に極めて大きい過失が認められることを主張しました。
C社担当者との交渉は難航しましたが、最終的にBさんが8割の過失を認める内容で示談を成立させることができました。
担当弁護士の所感
交通事故で過失割合が問題になる際、弁護士や損保会社担当者が一般的に用いる資料が、
【別冊判例タイムズ38号(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)】という書籍です。
同書には、過去の裁判における過失割合の相場が、幅広い事故類型とともに記載されており、同書の内容を踏まえた過失割合で示談が成立するケースは多いです。
しかし本件のように特殊な事故類型の場合、上記書籍や過去の裁判例の結果等から、過失割合を簡単に導くことはできません。
本来、交通事故における過失割合は、個別具体的な事故状況から合理的に判断されるべきものであり、実際の事故現場の検証や、実況見分調書等の一次資料の分析は、極めて重要です。
本件は解決が非常に困難な案件でしたが、交通事故に向き合う弁護士として重要な心構えを再確認することができました。
解決期間 8ヶ月