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事例62 感情的な対立が大きかったが、落としどころを見つけて離婚が成立したケース

ご相談者様の状況・ご相談内容

女性の離婚ケース

  • 依頼者:Aさん(40代女性、パート・無職
  • 婚姻期間:約12年、別居期間:約1ヶ月
  • 離婚の種類:調停離婚
  • 子ども:あり

解決内容

高等教育機関に進学した場合は、子らが22歳になったあと最初にくる3月まで養育費を支払ってもらう内容の合意ができた
婚姻期間中に生じた債務を相手方が弁済する内容で離婚できた

事案

Aさんは、長年夫の高圧的な態度に耐えてきました。また、夫との間にたくさんの子がいたため、いつも生活費の不足に悩んでいましたが、そのことを夫に相談しても怒鳴られるばかりでした。
父(Aさんの夫)に恐怖心を抱いている子もおり、これまでも何度か離婚の話が出かかりましたが、子どもたちのために離婚を選択せずにいました。

ある時、夫の態度がとても冷たいものになり、子どもたちも恐怖を覚えたため、Aさんは子どもたちを連れて実家に帰り、別居が始まりました。

Aさんは、夫との離婚を成立させることを決意し、担当弁護士に離婚調停を依頼しました。

弁護士の対応

1. 初期の対応

まず、夫を相手方として離婚調停と、婚姻期間中の配偶者と子の生活費である婚姻費用の支払いを求める、婚姻費用分担請求調停を申し立てました。

2. 婚姻費用分担請求調停

婚姻費用は、当事者双方の収入の額と、子どもの年齢と人数で決まります。婚姻費用の額が決まったとき、婚姻費用分担請求調停が申し立てられてからの未払い分は、後から支払う必要が生じます。

本件においては、別居後も夫の口座から引き落とされるお金(給食費など)があったため、Excel表を用いて一つひとつ既払いの婚姻費用を計算しました。
そのなかで、別居前にAさんが夫名義のクレジットカードを使って買い物をした分の引落しが別居後にあったことから、この引落し分をすでに支払った婚姻費用とみなせるかどうかが問題になりました。

担当弁護士が裁判例を調査したところ、別居日以降のクレジットカードの引落しにかかる負担分は、利用年月日が別居日以前であれば、婚姻費用の既払金とは認められないと判示している裁判例(東京高決令和5年4月20日)が見つかりました。

「そこで検討するに、令和2年3月27日引落しに係る負担分については、その利用年月日はいずれも別居開始前であるのだから(認定事実(5))、別居開始後の相手方世帯の生活費とはいえず、婚姻費用の既払金とは認められない。」

東京高等裁判所 令和5年4月20日判決

この裁判例を受け、利用日が別居前のクレジットカードの引落し分は、既払いの婚姻費用とはしないことの合意ができました。

3. 離婚調停

Aさんは、夫が生活苦の相談に乗ってくれてなかったため、生活費が足りず、夫に無断で夫のクレジットカードを用いてリボ払いやキャッシングをしていました。Aさんは、同居中は自らのパート収入からこれらの返済をしていましたが、別居後、夫にリボ払いやキャッシングが発覚し、夫は大激怒しました。

そのため、離婚調停において、債務は夫が負担する代わりに、財産分与を求めないことで合意しました。

一方、Aさんは、標準算定方式(実務上使われる、双方の収入、子の年齢及び人数を当てはめれば養育費の額が出せる計算方式)に基づいて算定される養育費の額に不満を持っていました。 当方は、夫の正社員としての収入に夫がしていたアルバイトの収入も加えた額を基準として養育費も算定するべきだと主張しましたが、夫はアルバイトを辞めたと主張し、裁判官はアルバイトの収入を加えることを認めませんでした。

夫は、養育費の支払い終期は子が成人となる18歳になったときとするべきと主張しましたが、当方は、成人年齢の引き下げにより社会情勢に変化が生じたわけではないため、原則として養育費の支払終期は成人年齢引き下げ前と同様、20歳であると主張し、そのうえで、子らに高等教育機関(大学等)に進学する場合は、22歳に達する日以降に到達する最初の3月とするべきだと主張しました。調停では、この内容で合意が成立しました。

担当弁護士の所感

Aさんは夫の同居中の態度に不満をもっており、子らを育てるための生活費の不足に強い不安を感じていました。

夫も、Aさんが一方的に別居したと感じており、また自分の知らない債務があったことから、被害者意識がありました。そして、その債務の弁済をしつつ、婚姻費用の支払いをしなければならないことに不満がある様子でした。

双方の感情的な対立が大きかったですが、なんとか離婚が成立しました。

    本件のポイント
  • 感情的な対立が大きくても、婚姻費用と養育費について、標準算定方式で算定される額から離れることはめったにない。

   
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