岡崎事務所ブログ

被相続人の預金持ち出しをめぐる使途不明金の問題について

【想定事例】

被相続人にはAさんとBさん2人のお子さんがいました。
生前、被相続人はBさんと長期間同居生活していました。

被相続人は認知症を発症しており、途中から訪問介護を利用し、亡くなる数年前からは介護施設へ入居していました。

被相続人の死亡後、Aさんが被相続人の預貯金口座の残高を確認したところ、残高がとても少なくなっていました。通帳の取引履歴を確認すると、定期的に数十万円単位の金額が出金されていました。

Aさんは、Bさんが被相続人の預金を持ち出したのではないかと疑っていますが、Bさんは出金をしたことを否定しています。

このような場合に、Aさんはどのようにしたらいいでしょうか。
いわゆる被相続人の預貯金の持ち出しをめぐる使途不明金の問題です。

通帳

【回答】

1 争い方

Aさんは、Bさんに対して持ち出した預金の返還請求をすることになります。法的な構成としては、不法行為もしくは不当利得返還請求といわれるものです。

いずれの構成によっても、Aさんは、「Bさんが被相続人の預貯金口座から出金したこと」を立証しなければなりません。Aさんがこの立証ができなければ、裁判ではAさんの主張は認められません。

2 事実関係の調査

(1)預金の取引履歴の調査
まずは、被相続人の預貯金口座がどのような動きをしていたか細部まで確認する必要があります。

通帳の取引履歴は、金融機関により異なりますが、長くて10年分程取得できることが多いです。

通帳の取引履歴を確認すると、窓口での出金なのか、ATMでの出金なのか、どこの店舗での出金なのかが分かります。

送金されている場合には、送金先の情報が得られる場合もあります。
出金したATMや店舗の場所が分かれば、被相続人の病状(そもそも外出できたのか)や行動範囲からして被相続人による出金といえるのかという検討が可能です。

出金場所が、被相続人の生活圏内ではなくBさんの生活圏内であった場合にはBさんが出金していた疑いがより高まります。

(2)被相続人の病状の調査
今回のケースでは、被相続人が認知症にかかっていたということですから、被相続人の病状の調査は必須と言えます。

認知症の進行具合によっては、被相続人が一人で預金解約できない状況になっていた可能性もあります。

① 介護認定の通知書等
被相続人が介護認定を受けていた場合、介護認定の通知書の取得をすることが考えられます。認定通知は、市町村に対して個人情報開示請求を行うことにより取得可能です。

また、介護認定は、市の職員又はその委託を受けた調査員が自宅等を訪問する訪問調査を行い、かかりつけ医師に心身の状況について意見書を書いてもらうこと等を経て認定されます。

この過程における訪問調査の結果は、認定調査票という形でまとめられ、主治医の意見書は主治医意見書という形でまとめられることになります。

認定調査票及び主治医意見書は、当時の被相続人の病状等について詳細に記載がされていることから、こちらも併せて取得することが望ましいです。

また、要介護認定には有効期間があることから、一定期間ごとに更新していることが多いです。この場合には、更新前の認定通知を含めて請求することになります(ただし、市町村ごとに異なりますが、保存期間が最長5年程度であるため全てのものが取得できるとは限らない点に注意が必要です)。

② カルテ、看護記録、介護記録
被相続人が病院へ通院ないし入院していた場合、カルテや看護記録が病院で保管されていることが通常です。その内容については病院ごとに異なりますが、被相続人の病状が記載されています。

また、被相続人が介護保険施設等で介護を受けていた場合、介護福祉士による介護記録が作成されています。こちらも、内容については、施設ごと、介護福祉士ごとに記載の程度等がことなりますが、被相続人の病状を把握することが可能です。

③ その他
被相続人の日記や、家族に宛てた手紙、家族が被相続人と会った時の写真等も被相続人の病状を知る手掛かりとなります。

また、可能であれば、被相続人を間近でみていた病院や福祉施設職員等から直接被相続人の病状について聴取することが望ましいでしょう。

以上の①ないし③等の資料を精査し、被相続人の病状の変遷を把握することが非常に大事です。

(3)金融機関の出金履歴
金融機関の窓口で出金する場合には、払戻請求書に記入をして払い戻しをすることが通常です。(1)の預貯金通帳の履歴から、窓口での出金が確認できる場合には、当該出金がされた店舗に払戻請求書の照会手続きをすることが考えられます。

こちらは、金融機関内部の重要書類であるため、相続人であっても開示を受けられない可能性もあります。その場合には、弁護士による弁護士会照会を通じて照会することになるでしょう。

代理人による払戻請求をしていた場合には、払戻請求書に代理人の記載が残っている可能性があります。

今回の事例で、Bさんが一度も出金に関与していなかったと主張していたときに、払戻請求書からBさんが出金したことの履歴が分かれば、Bさんが少なくともその払戻請求書による払い戻しをした部分については嘘をついていることになります。

(4)通帳、カードの保管状況等
被相続人が、通帳やカードをどこでどのように保管していたかも重要です。
被相続人が全て手の届く範囲の場所に保管している場合もありますし、金融機関の貸金庫に保管していた場合もあります。

金融機関の貸金庫に保管をしていた場合には、金融機関の貸金庫の開閉履歴を取得することが考えられます。被相続人の病状から、そもそも貸金庫でも管理が可能であったのかを含めて検討し、預貯金通帳の出金と貸金庫の開閉履歴が重なるかの観点からの調査も重要となります。

以上のような調査を行い、Aさんは、「Bさんが被相続人の預貯金口座から出金したこと」を主張立証していくことになります。

3 その他の争い

今回は、あくまでBさんが出金に全く関与していないという事例を想定してご紹介しました。

Bさんが、❶出金はしたが、被相続人から頼まれた、❷出金はしたが被相続人のために使用した、❸被相続人を金融機関に連れていき、出金行為を補助しただけだ、等主張する場合には、争い方もまた異なってきます。

❶では、Bさんに出金権限があったのかという点が争点になるため、そもそも被相続人が授権行為ができたのか、そのような授権を基礎づける事実があるのか、という点が問題になるでしょう。

❷では、その使途が問題となり、その合理性が問題となるでしょう。入院費や生活費に使用した、というケースや、被相続人の死亡後の葬儀費用に使用した等がよくある主張です。

❸では、Bさんがどの程度関与したのか、被相続人が出金した金銭をどうしたのか等からBさんが費消したことを立証できるかが問題となります。
このように、使途不明金をめぐる紛争は、相手方の争い方から争点となる法的問題点も変わるため、相手方の反論を踏まえて慎重に検討する必要があります。

被相続人の預金を使い込んだということで感情的な対立も大きくなるところですが、基本的な立証責任が請求する側にあるため、証拠を充分に収集し、根拠をもって主張していくことが重要です。

   
↑ページトップへ