はじめに
「裁判で確定したお金の支払いがしてもらえない」「調停で決めた養育費の支払いが滞っている」こんなお困りごとありませんか?
確定判決や調停調書をお持ちの場合は、「強制執行」することが可能です。
強制執行の前に…
そもそも強制執行には債務者の財産を特定することが必要です。
どの財産に対して強制執行をするのか指定する必要があるので、債務者がどこにどんな財産を保有しているのか、特定しなければいけないのです。
ですが、他人の財産の内容なんて簡単に知り得るはずがありません。
その為に、平成15年に「財産開示手続」というものが創設されました。しかし、この手続きの利用実績は年間1,000件前後と低調でした。
これを向上させるため、言い換えれば、利用しやすく実効的なものにするため、民事執行法は改正されました。
財産開示手続の見直し
まずは申立権者の範囲の拡大がなされました。
改正前の主な債務名義
- 確定判決
(判決、手形判決、少額訴訟判決※など) - 確定判決と同一の効力を有するもの
(家事判決※、和解調書、民事調停調書、家事調停調書△など) - 訴訟費用額確定処分
改正後の主な債務名義
- 確定判決
(判決、手形判決、少額訴訟判決※など) - 確定判決と同一の効力を有するもの
(家事判決※、和解調書、民事調停調書、家事調停調書△など) - 訴訟費用額確定処分
- 仮執行宣言付支払督促※
- 仮執行宣言付判決
- 公正証書(執行証書)
執行文の付与が必要です。ただし、※印は執行文不要、△印は内容により執行文不要。
また、債務名義が家事審判の場合には、確定証明書の添付が必要
上記の通り、改正前は確定判決または、確定判決と同一の効力を有するもの、訴訟費用額確定処分が、財産開示手続の申立が可能な債務名義として認められていましたが、改正後には仮執行宣言付支払督促や、仮執行宣言付判決、(債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている)公正証書についても、財産開示手続の申立が可能な債務名義として認められる様になりました。
財産開示手続の流れ
※財産開示期日は非公開
強制執行に必要な債務名義を有している申立権者が申立てをすることで、債務者を裁判所に呼び出し、どんな財産を持っているかを裁判官の前で明らかにさせることができます。
また債務者の不出頭等に対する罰則は、改正前が30万円以下の過料であったところ、改正によって6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金へと強化されました。
従前、財産開示の利用が低調だった背景には、出頭しなかった場合でも行政罰である過料を支払えば済むという制裁の弱さが指摘されていました。
改正によって、出頭から故意に逃れるような違反者には、刑事罰が科される(前科がつく)可能性も出てきたので、債務者が裁判所の呼び出しにきちんと応じることが期待できます。
相手の住所が分からない場合:公示送達
財産開示手続では、これまで公示送達による債務者への送達が認められてこなかったため、債務者がどこに住んでいるのか分からない場合は、利用することができませんでした。
しかし、今回の改正で第三者からの情報取得手続を利用する場合、財産開示手続を先に実施しなければならないとされたことにより、財産開示手続においても公示送達による債務者(開示義務者)への送達を認める運用に改める予定であるとの見解が裁判所より示されています(※)。
公示送達とは、郵送等、通常の方法での送達ができない場合に、裁判所の掲示場へ「送達すべき書類を保管しているので、裁判所まで受け取りに来てください」との内容の文書を掲示し、所定の期限(掲示日の翌日から2週間)までに相手が受領しなかった場合に、法律上、相手が書類を受け取ったものとみなす方法です。
相手の住所が分からない場合、まずは(判決等に記載された)債務名義上の住所への送達が考えられますが、これが届かなかった場合は、裁判所へ相手の所在に関する報告(上申書の提出)を行い、この結果を踏まえ、裁判所が公示送達を行うかの判断をすることになります。(※令和2年2月現在。裁判所の運用は予告なく変更されることがあります。)
制度の新設:第三者からの情報取得手続
財産開示手続の見直しに加え、債務者以外の第三者からも債務者の財産に関する情報を得られるようになりました。
金融機関 | 預貯金債権、上場株式・国債等に関する情報 |
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登記所 | 土地・建物に関する情報 |
市町村・日本年金機構等 | 給与債権(勤務先)に関する情報 |
具体的に、第三者とは、①金融機関②登記所③市町村・日本年金機構等を指します。
それぞれ、取得できる情報が決まっていて、債務名義を有する方であれば、裁判所に申立てをして、情報の提供を命じてもらうことができます。
預貯金等に関する情報手続以外は、財産開示手続を先行して行う必要があること、そして、勤務先に関する情報取得手続は養育費等や生命・身体の侵害による損害賠償の債権者のみ申立が可能であることには注意が必要です。
強制執行
強制執行とは債権者の申立により、裁判所が債務者の預貯金や給与を差し押さえたり、不動産を競売にかけたりすることで、債務者の持っている財産からお金を強制的に回収させる手続です。
前述のように、強制執行の手続きには債務者の財産を特定する必要がある訳ですから、ここまでに紹介した方法により取得した情報を基に、強制執行の手続を取ることが可能となります。
※預貯金等に関する情報取得手続以外は財産開示手続を先行して行う必要あり
※勤務先に関する情報取得手続は養育費等や生命・身体の侵害による損害賠償の債権者のみ申立可能
今後への期待
民事執行法が改正されたことで、子どもの養育費の未払い・不払いで困っている人たちが泣き寝入りしている現状が改善されることが期待されます。ひとり親家庭にとって死活問題となりうる養育費の未払いや、不払いで困っている方がこの改正で少しでも、よい方向へ進むことを願うばかりです。
養育費の未払いについて詳しくはこちらをご覧ください。