弁護士 大野貴央
1.自宅の荷物をどうするか、考えておくべき
離婚に先立ち、夫婦が別居にすることはよくあることです。
別居にあたって見落とされがちな問題として、
(出ていく側の)自宅にある荷物をどうするか?という問題があります。
別居に至るほど夫婦関係が悪化している場合、この問題は当事者にとって深刻なトラブルとなる可能性があります。
今回は、「離婚に伴う別居と自宅荷物の問題」について考えてみたいと思います。
2.問題となるケース
ケース1:自宅へ私物を残してきてしまったので、私物を引き上げに戻りたい
Q.1
自宅の鍵を持っているので、相手が留守中に、荷物を取りに戻ってもいいですか?
A.1:
出ていく側が、別居時に荷物を十分に持ち出せなかったため、追加で荷物を引き上げに戻りたいと希望するケースです。
自宅へ荷物を引き上げに戻りたい場合は、基本的に、(自宅に住んでいる)相手方の同意を得てから、荷物を引き上げることになります。
自宅の鍵を持っているからといって、相手方に無断で、留守中の家に立ち入る等した場合、住居侵入罪(刑法130条)といった違法行為に該当する可能性があります。
また引き上げの際も、後になって相手方から「勝手に○○を持ち去られた」等とクレームを受けるリスクがあります。
ポイント
具体的に何を持ち出すのか、事前に相手方へよく確認をとっておくことが重要です。
ケース2:相手が自宅を出て行ったが、自分の私物や、共同で使っていた家具等まで持ち出されてしまった。
Q.2:
○○は夫婦共有財産の筈なのに、相手が持ち去ったのは、窃盗にあたらないのか?
Q.3:
相手方に自分名義の預金通帳(キャッシュカード)を持ち出されてしまったが、どうすればいいか?
A.2:
出て行かれた側が、相手方に、必要以上の荷物を持ち出されてしまったケースです。
夫婦共有財産を無断で持ち去られた場合、形式的には窃盗罪(刑法235条)に該当する可能性があります。
しかし、配偶者による持ち去り行為は、処罰の対象になりません(同244条1項)。
したがって、刑事告訴等の対応をとることは難しく、持ち去られた共有財産の処理については、財産分与の交渉の中で話し合うことになるでしょう。
A.3:
一方、自分名義の預金通帳やキャッシュカードを持ち去られた場合は、金融機関で再発行することが可能ですから、相手方に預金を下ろされてしまう前に、速やかに再発行手続をとりましょう。
ケース3:相手が自宅を出て行ったが、相手の私物(不要物)が大量に残されている。
Q.4:
勝手に相手方の私物を処分してしまって問題ないか?
Q.5:
残置物の処分費用は相手方に請求できるのか?
A.4:
<ケース2>とは逆に、出て行かれた側が、相手方に、大量の不要物(ゴミ)を残置されてしまったケースです。
相手方が残していった私物は、一見ゴミに見えるものでも、勝手に処分すると、後になってクレームを受けたり、最悪の場合、損害賠償請求を受けるリスクがあります。
したがって荷物を処分したい場合は、相手方から、自宅の荷物について所有権を放棄し、処分しても異議を申し立てない旨の約束を取り付けておくべきでしょう。
A.5:
また荷物の処分は、相当額の処分費用がかかることが多いです。
費用は、費用償還請求(民法702条)や財産分与の清算の中で協議されることになろうと思われます。
なので、相手に請求は可能であるものの、相手が処分費用を負担してくれるとは限りません。
相手に返済能力がなければ、最終的に処分費用を回収できない(自己負担になってしまう)リスクがあります。
ポイント
残された荷物の処分費用は、相手から回収できないリスクを踏まえ、なるべく安くしておく(可能な限り、一般ゴミとして処分するなど)ことも重要です。
3.事前に弁護士に相談するのがオススメです
自宅の荷物の問題は、離婚に伴う別居の際に大きなトラブルの原因となる要素です。
一度荷物を持ち出して(持ち去られて)しまうと、後になって取り返しの付かないほど対立が激化してしまうリスクがあります。
別居を考える際は、荷物の持ち出しについて慎重に検討したほうがよいですし、専門家である弁護士へ、事前にご相談いただいたほうがよいでしょう。
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