ご相談者様の状況・ご相談内容
- 被相続人:Aさん
- 依頼者:Bさんら(Aさんの子供4名)
Aさんの配偶者はAさんより先に死亡していたため、Aさんの法定相続人は子どもであるBさんら4名でした。
Aさんは生前連帯保証人となっていた会社が倒産したため、負債を抱えていました。そのため、Bさんらは相続放棄を希望しており、相続放棄手続きについてご相談にいらっしゃいました。
具体的な相談内容としては、Aさんの葬儀費用を支払うためにAさんの口座より引出した現金の取扱いと、Aさんのアパートの賃貸借契約の解約についてです。
解決までの流れ
1.相続放棄手続きについて
相続の開始を知った日(被相続人が亡くなったことを知った日)から3カ月以内であれば相続放棄をすることが出来るが、相続財産の一部を処分した場合には相続を単純承認したものとみなされ、相続放棄をすることが出来なくなります。
Bさんらは相続債務を無くしたいとご希望でしたので、相続放棄手続きを行うこととしました。
2.解決方法
(1)口座から引き出した現金の取扱いについて
BさんらはAさんの葬儀費用を支払うために、Aさんの口座より現金を引き出していましたが、引き出した現金については使っていませんでした。
実際にBさんらはAさんの現金を使用していませんが、現金を所持したままの状態ですと財産を秘匿しているとみなされる場合があります。そのため、引き出した現金についてはAさんの口座に戻すことが無難であるとお伝えをしました。
(2)アパートの賃貸借契約の解約について
アパートの賃貸借契約の解約は、債務の増加を防止するという点に着目すれば、保存行為と評価される可能性もありますが、賃借権を消滅させるという効果に着目すると、処分行為とみなされ相続放棄手続きが行えない可能性があります。そのため、アパートの賃貸借契約の解約手続きはしない方が無難である旨お伝えしました。
もっとも、賃貸人からは退去を求められていたため、動産類を無価値物として業者に引き取ってもらうか、又は一時的に別の場所で保存する方法等があることを提案いたしました。
(3)家庭裁判所における相続放棄の手続きについて
①及び②を踏まえたうえで、家庭裁判所へ必要書類を提出したところ、裁判所より相続放棄を認める旨の決定が出され、BさんらはAさんの相続財産を放棄することができました。
所感(解説)
生前対策をしていないと、被相続人が亡くなられた後に遺産分割協議等で思いもよらない紛争が生じる可能性があります。
そのため、生前に財産を誰に残したいか等の意向がある場合には、遺言書を書いておく等の対策をしておく必要があるといえます。
相続財産には、今回の事例のように被相続人が生前に抱えていた負債などのマイナスの遺産も含まれます。相続が発生した場合には、どのような遺産があるのかを把握した上で、マイナスの遺産が含まれる場合には相続放棄の手続きを検討することが必要です。
ただし相続放棄の申立て期限は、相続の開始を知った日(被相続人が亡くなったことを知った日)から3カ月以内が原則です。また、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為、および短期賃貸を除く)には、相続を単純承認したものとみなされ、相続放棄をすることが出来なくなるため注意が必要です。
今回の事案のように、アパートの賃貸借契約の解約等を処分行為にあたらないと判断してしまうと、有効な相続放棄が出来なくなる可能性があります。
相続放棄を検討されている場合には、自己判断で相続財産を処分する前にまずは弁護士にご相談することをおすすめします。