未成年者の子を持つ夫婦が協議の上、離婚する場合には、父母の一方を親権者として定めなければなりません(民法819条1項)。
親権者の指定は離婚の要件になっていますので、未成年者がいる場合で親権者の記載がない離婚届は法令に違反するものとして受理されません(民法765条1項)。
また、裁判離婚・審判離婚をする際は、裁判所が親権者を指定します(民法819条2項)。
離婚後の親権者について争いがある場合は、まずは、当事者での協議すなわち話し合いにより解決を目指します。
しかし、当事者双方が、強固に親権者となることを希望する場合(または、双方が親権者となることを拒否する場合)、当事者間の協議のみでは、折り合いがつかないことが多々あります。
そのような場合は、調停の場で親権者の決定を試みることになります。
当事者間で、親権者の指定について、折り合いがつかない場合、管轄の家庭裁判所に対して、夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てます。
調停では、調停委員を介した協議により親権者についての折り合いを付けることになります。
しかし、実態としては、自らが親権者となった方が、親権者指定の基準である「子の利益」に適うことを主張し、これを証拠により裏付けていく必要があります。
具体的には、従前の監護状況、監護能力、監護実績、監護能力、監護補助者の存在の有無、子の意思、年齢などの事情を詳細に主張することとなります。
調停手続は、あくまで家庭裁判所を利用した「話し合い」の場であるため、自分が望まない結果(親権者を相手方とする等)を打診された場合には、拒否することができます。
そのような場合、当事者間での話し合いによる合意は困難であるとして、審判手続に進むことになります。
審判手続では、調停手続における主張や提出された証拠を踏まえて、裁判官が、当事者のいずれかを親権者として指定します。
この審判について、不服がある場合は、2週間以内に高等裁判所に対して、即時抗告をします。
離婚には至っていないものの夫婦が別居を行い一方の親が子供を監護養育している場合があります。
このような場合、子供を監護している親を「監護親」、監護していない親を「非監護親」と呼びます。
そして、非監護親が監護親のもとから子供を連れ去ったため、監護親が連れ去った監護親に対して子供の引き渡しを求めることがあります。
そこで、本稿では、子供が連れ去られた場合に、どのような対処をするべきなのかをご説明します。
非監護親が、子供を連れ去るおそれがある場合には、子供が一人になる環境を作らないよう常に信用できる者が付き添う環境を整備し、連れ去りを防止することが重要となります。
また、連れ去りが暴力を伴う方法で行われた場合には、直ちに110番通報し、警察の支援を求めます。
子供の引渡しは、人身保護法による方法も考えられますが、通常は、家庭裁判所に子供の監護者の指定及び子どもの引渡しを求める審判の申立てを行い、同時に審判前の保全処分を求めます。
専門家に相談することなく個人でも申立てをすることはできますが、裁判官に対して、事実関係を的確に基本的には書面で説明する必要があるため、希望する結論を得るためには申立てを考えた時点で、直ちに弁護士に相談することが必須となります。
家庭裁判所では、どちらの親が子どもの監護者としてふさわしいか、子どもの福祉に資するのはどちらの親かという観点から審判をします。
審判では、子どもの年齢、従前の監護状況、兄弟姉妹の監護状況、別居時の状況、父母の経済状況及び居住環境、父母の実際の監護可能性、子どもの意思等が判断基準となります。
家庭裁判所の審判は、確定しないと法律上の効果は生じません。
家庭裁判所が審判に対し不服がある場合、高等裁判所に即時抗告することができます。 そのため、即時抗告ができる期間(14日)が経過するか、高等裁判所が抗告に対する決定を行い、これに対する不服申立てができなくなると審判が確定します。
したがって、子どもを連れて別居していた一方の親が他方の親に対して子どもの監護者の指定及び引渡しを命じる審判を申立て、これが認められたとしても、子どもの引渡しを受けるためには、審判の確定を待つ必要があります。
しかし、非監護親に連れ去られた子どもは、環境の変化により精神的身体的に苦痛を受けます。
また、審判により元の環境に戻ることになったとしても、時間の経過により連れ去り後の環境に適応し、元の環境に戻るとかえって精神的身体的に苦痛を受けることもあります。そのため、非監護親によって連れ去られた子どもを元の環境に戻す場合には、迅速に行う必要があります。
その際に、有用な制度が審判前の保全処分です。
保全処分は、審判確定までの仮の状態を定めるものですが、これが発せられると。直ちに子どもの引渡しを求めることができます。
基本的には、子どもの監護者の指定及び引渡しを命じる審判を申立てと併せて審判前の保全処分を申立て、子どもを審判に先立って取り戻します。
子どもの引渡しを命じる審判が確定するか、審判前の保全処分が発令されると、命じられた者は、子どもを引き渡さなければなりません。
任意に応じない場合は、権利者の申立てにより強制執行が行い、引渡しの結果を実現させます。
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