交通事故と紛争解決手続き

交通事故と紛争解決手続き

1.はじめに

交通事故事件は、示談交渉や訴訟のほかにも、様々な紛争解決手続があり、それぞれに長所と短所がございます。

しかし、はじめて、交通事故に巻き込まれた方には、いずれも馴染みがなく、理解しにくいものです。

そこで、本稿では、紛争解決手続の内容と、それらの長所と短所を説明いたします。

2.示談交渉

示談交渉とは、当事者間で話し合いを行い、紛争の解決を目指すというものです。

示談交渉は、少ない費用で迅速かつ柔軟な紛争解決ができるため、多くの交通事故事件が示談交渉により解決されています。

しかし、示談代行を行う保険会社の担当者や代理人である弁護士等の専門的な知識を有する者が交渉の相手方である場合、知識や経験面から交渉力に差があり、被害者に不利な解決となってしまう可能性があります。

示談交渉の長所と短所

長所 ・費用が安い
・解決までの時間が短い
短所 ・交渉力に差がある
・紛争の解決には、当事者の合意が必要となる
・賠償額の算定が任意保険基準でなされることが多い

3.ADR

ADRとは、Alternative Dispute Resolutionの略で、裁判外紛争解決手続と呼ばれるものです。

交通事故事件に対応するADRとして、次の2つの機関が代表的であり、よく利用されています。

  1. 日弁連交通事故相談センター
    日弁連交通事故相談センターは、日本弁護士連合会(通称「日弁連」)という日本の全ての弁護士が登録しなければならない組織により、昭和42年に設立されたADR機関です。
    令和2年7月現在、全国156か所に相談所があり、利便性の高いADR機関となっています。
    日弁連交通事故相談センターでは、①相談、②示談あっせん手続、③審査手続の3つの手続があり、段階的に進行していきます。
    手続の詳細については、交通事故とADRのページをご覧ください。
  2. 交通事故紛争処理センター
    交通事故紛争処理センターは、交通事故裁定委員会を前身として昭和53年に設立されたADR機関です。
    令和2年7月現在、全国11か所にしか、相談センターがなく、利便性の面では日弁連交通事故相談センターと比較すると利用しにくいADR機関となります。
    交通事故紛争処理センターでは、①相談、②和解あっせん手続、③審査手続の3つの手続があり、段階的に進行していきます。
    手続の詳細については、交通事故とADRのページをご覧ください。

ADR手続きの長所と短所

長所 ・損害額の算定が赤い本基準に準じて行われる
・費用が安く、無料の場合もある
・厳格な立証が求められない
短所 ・事故の態様によっては利用できない
・合意が成立しても強制執行できない

4.調停

調停とは、裁判所において当事者が調停委員を介して、話し合いを行いお互いが合意をすることで紛争の解決を図る手続きです。

交通事故に関する調停事件のうち、いわゆる人損が関係する事件を交通調停事件といい、物損のみの事件は、一般民事調停事件の対象となります。

一般民事調停事件の管轄は、相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所または当事者が合意で定めた地方裁判所もしくは簡易裁判所となります。

交通調停事件の場合、以上に加え、損害賠償を請求する者の住所または居所の所在地を管轄する簡易裁判所が加わります。

調停手続は、申立てに時効中断効があり、調停調書の記載には、確定判決と同一の効力があります。

しかし、調停の成立には、当事者の合意が必要であるため、当事者間で合意が形成できない場合には、最終的には訴訟を提起せざるを得ないこととなります。

調停手続きの長所と短所

長所 ・訴訟と比較すると手数料が安い
・訴訟と比較すると早期の解決が期待できる
・時効の中断効がある
短所 ・紛争の解決には、当事者間の合意が必要となる

5.訴訟

示談交渉、調停手続などにより当事者が合意を形成する形での紛争の解決が困難な場合には、訴訟を提起することになります。

訴訟では、当事者間で争いになっている事項について、主張立証を行い、最終的には、裁判官による判決という形で紛争の解決を図ることとなります。

しかし、実務上は、訴訟提起後も、和解という形で当事者が合意を形成し、解決することも多く、訴訟提起したら、必ず判決があるというわけではありません。

訴訟手続きの長所と短所

長所 ・損害額の算定が赤い本基準でなされる
・終局的な解決が期待できる
短所 ・費用が相応にかかり、手続きの進行に時間がかかる
・手続きが厳格であり弁護士に依頼する必要性が高い
   
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