物損事故Q&A

物損事故Q&A

交通事故事件は、人損と物損で請求の根拠が異なること、複雑な保険制度、馴染みのない単語が多々あることから、事件の当事者となると、書類の文言の意味が分からない、どう手続きを進めたらよいかわからない等、疑問で溢れてしまいます。
そこで、本稿では、物損事故に関連する事項について、Q&A方式で簡単にまとめ、物損事故に関する疑問にお答えします。

  1. 自賠責の適用があるのか
  2. 物損について慰謝料は発生するのか
  3. 経済的全損とは
  4. 評価損とは
  5. 代車料とは
  6. 休車損害とは
  7. 積荷損害とは
  8. ペットが死亡した場合、慰謝料請求は認められるか
  9. 建物が損壊された場合、修理費が全額損害として認められるか
  10. 所有権留保車両の修理費を請求できるのか

自賠責の適用があるのか

ありません。

自動車損害賠償保障法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しています。
「他人の生命又は身体を害したとき」を反対に解釈しますと、物を壊した場合には、同法3条の適用はないということになります。

したがって、加害者に対し、物損の損害賠償請求をする際には、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)によることとなります。

物損について慰謝料は発生するのか

原則として発生しません。

物損事故に関しては、一般に財産上の損害が賠償されることにより、精神的苦痛(不快な気持ち)も慰謝されると理解されています。
したがって、物損については、原則として慰謝料は発生しません。

しかし、例外的に、交通事故によりペットなどの動物が死亡した場合などには、慰謝料請求が認められることがあります。
医療過誤訴訟による認容額を参考にしますと、数万円から数十万円程度が慰謝料として認められる傾向にありますので、交通事故によりペットが死亡した場合にも、概ね範囲内で慰謝料請求が認められる可能性があります。

また、代替性のない芸術品が、交通事故により失われてしまった場合にも、その芸術品の価値だけでなく精神的苦痛に対する慰謝料が認められる可能性があります。

経済的全損とは

まず、全損とは、事故車両が物理的又は経済的に修理不能になった場合をいいます。

そして、物理的全損とは、物理的に事故車両を修理することが不可能な場合をいいます。

これに対し、経済的全損とは、事故車両の修理費が事故時の車両価格及び買替諸費用の合計を上回る場合をいいます。
この時、修理費と比較対象となる「買替諸費用」は、判例上、新車購入費用ではなく、事故車両と同種同等の車両を取得するのに要する費用とされています。
一般に、事故車両が全損状態であると認められる場合は、買替差額(事故発生時の車両の時価と、事故車両を売却したときの代金の差額)の賠償が認められます。

評価損とは

評価損とは、事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額をいいます。

この評価損は、取引上の評価損技術上の評価損の大きく2つに分けられます。

取引上の評価損とは、事故車両を修理し原状回復され、欠陥が残存していない場合でも、中古車市場において価格が低下した場合の評価損をいいます。
技術上の評価損とは、事故車両の修理をしても完全な原状回復ができず、機能や外観に何らかの欠陥が存在していることにより生じた評価損をいいます。

代車料とは

代車料とは、車両が損傷し、その修理や買替えのために車両を使用できなかった場合に、有償で他の車両を賃借するのに要した費用をいいます。
代車料が損害として認められるためには、①代車を使用したこと、②代車料を支払ったこと、③代車を使用する必要性があったことを立証する必要があります。

③代車を使用する必要性については、事故車両が営業用の車両の場合は、原則として認められる傾向にあります。
しかし、事故車両が自家用車の場合は、事故車両の使用目的・状況から日常生活に不可欠といえるか否か、代替交通機関を使用することの可能性・相当性等の事情から総合的に判断されることになります。

したがって、事故車両が自家用車の場合には、代車料を支払っても、後にその金額についての賠償を受けることができない可能性があるため注意が必要です。

休車損害とは

休車損害とは、営業用車両が事故により修理又は買替えをようすることになった場合における修理又は買替えに必要な期間中の営業損失をいいます。

一般に、休車損害が認められるためには、次の要件を充足している必要があります。

  1. 事故車を使用する必要性があること
    被害者が、交通事故により車を使用することができなくなったとしても、そもそも車を使用する状況でない場合には、損害の発生は認められません。
  2. 代車を容易に調達できないこと
    タクシーやハイヤー等の「緑ナンバー」の車両については、車を業務に使用するためには、許認可が必要な関係から、この要件を充足すると考えられています。
    しかし、「白ナンバー」の車両については、代車を調達することができないような特殊な車両であれば休車損害が認められる傾向にありますが、代車が調達可能な通常の車両の場合は、休車損害は認められない可能性があります。
    なお、休車損害は、車両を使用することができなかったことにより生じる損害であるため、代車料が損害賠償の対象となる場合には、休車損害の請求は認められません。
  3. 遊休車が存在しないこと
    遊休車とは、故障等の理由により車両が使用できないとき、予備として使用する車両です。
    遊休車が存在し、休車の発生を防ぐことができる場合には、休車損害は認められません。

積荷損害とは

積荷損害とは、交通事故により車両のみならず車両に積載されていた積荷についても損傷させ、損害を発生させることをいいます。
積荷等の損傷について、損害賠償請求が認められるためには、一般人の社会通念から、その車両と事故を起こしたときに、積荷等があり、それらに損害を与えることが予見し得る必要があります。

例えば、乗用車に高価な美術品を積んでいた場合には、加害車両の運転者において、被害車両に積荷が存在しているか予見困難であるため、損害賠償請求が認められない可能性があります。
また、積荷損害は、車両損害と同様に、基本的にはその修理費又は積荷の時価のうち、低い金額について認められます。

ペットが死亡した場合、慰謝料請求は認められるか

例外的に認められる場合があります。

ペットすなわち動物は、法律上「物」として扱われます。
そして、一般に、物的損害については、財産上の損害の賠償により、精神的苦痛も慰謝されていると解されるため、原則として、慰謝料請求は認められません。
しかし、ペットは、家族の一員として扱われ、家族にとってかけがえのない存在になっていることが多々あります。
そのため、そのようなペットが交通事故により死亡した場合には、例外的に慰謝料請求性が認められる場合があります。

建物が損壊された場合、修理費が全額損害として認められるか

一部が認められない場合があります。

車が自宅に衝突し、自宅の一部が損壊した場合、加害車両の運転者に対して、当然、修理費を請求することができます。
しかし、中古建物を修理した場合、修理により当該建物の耐用年数が延長されるなどして、結果的に被害者が利益を得る場合があります。これを新旧交換差益と呼びます。
このような新旧交換差益を損害の算定にあたり考慮するかについて、現在、確立した基準はありませんが、修理によって耐用年数が明らかに延長していると認められる場合には、新旧交換差益を考慮される傾向にあります。
したがって、このような場合には、新旧交換差益が修理費と損益相殺され、修理費の一部が賠償として受け取れない可能性があります。

所有権留保車両の修理費を請求できるのか

できます。

事故車両の修理が行われたか否か、買主が修理費を完済したか否かにより、主張・立証する内容が若干異なりますが、基本的に請求することができます。

   
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