第九回では、配偶者短期居住権についてご説明します。
配偶者が、被相続人の死亡時、被相続人名義の建物に居住していると、他の相続人から退去を求められるなどし、生活が不安定となるおそれがありました。
これまでも、判例(最判平成8年12月17日)は、遺産分割時までの使用貸借契約が成立を推認するなどして、配偶者の居住権保護を図ってきました。
しかし、被相続人が建物を配偶者以外の者に遺贈した場合などには、配偶者の居住権が保護されないということがありました。
そこで、平成30年の相続法改正では、被相続人の意思にかかわらず配偶者の短期的な居住権を保護するため、配偶者短期居住権が新設されました。
配偶者は、相続開始時に被相続人の財産に属した建物に、無償で居住していた場合、次の区分に応じて、その居住していた建物のうち、無償で使用していた部分について、配偶者短期居住権を取得します(新民法1037条1項)。
もっとも、配偶者が相続開始時に配偶者居住権を取得した場合、相続欠格事由に該当する場合、廃除によって相続権を失った場合には、配偶者短期居住権は成立しません(新民法1037条1項ただし書)。
1)使用について
配偶者は、配偶者短期居住権に基づき、居住建物を無償で使用することができます。
しかし、配偶者短期居住権には、対抗要件の制度が設けられていないので、居住建物の取得者が第三者に居住建物を譲渡した場合、配偶者は、その譲受人に対し、配偶者短期居住権を対抗すなわち主張することができません。
もっとも、居住建物取得者は、居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない義務を負っているため、居住建物取得者がこの義務に反し、配偶者の使用を妨げた場合には、居住建物取得者に対して、債務不履行責任を追及することが考えられます。
譲渡の禁止
配偶者短期居住権は、譲渡することが禁止されています(新民法1041条による新民法1032条2項の準用)。
3)妨害排除請求権がないこと
配偶者短期居住権では、配偶者居住権と異なり、第三者に対する妨害排除請求権はありません。
したがって、第三者の行為により居住に際し、不都合が生じた場合には、居住建物取得者に対応を求める必要があります。
配偶者短期居住権は、次の事由が生じた場合に消滅します。
1)消滅請求
配偶者が、用法遵守義務や善管注意義務に違反した場合、無断で第三者に使用させた場合には、居住建物取得者は、当該配偶者に対し、配偶者短期居住権の消滅を請求し、同権利を消滅させることができます(新民法1038条3項)。
2)消滅の申入れ
居住建物取得者は、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合を除き、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができます(新民法1037条3項)。
この申入れから6カ月が経過すると配偶者短期居住権の存続期間が満了となり、配偶者居住権は消滅します。(新民法1037条1項2号)。
令和2年4月1日以後に開始した相続及び同日以後にされた遺贈について、改正後の本規定が適用されます。
令和2年3月31日以前に開始した相続及び同日以前にされた遺贈について改正前民法が適用され、これらの相続、遺贈については、配偶者短期居住権は成立しません。
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