第八回は、改正により新設されました配偶者居住権についてご説明します。
平均寿命の伸びたことにより、被相続人の配偶者が、被相続人の死亡後も長期間にわたり生活を継続することが多くなり、配偶者の居住権を確保しつつ、その後の生活資金を確保する必要が生じました。
改正前民法では、このような配偶者の希望を実現するため、配偶者が居住建物の取得者と賃貸借契約を締結したり、共有持分権、所有権を取得する方法等がとられていました。
しかし、いずれの方法にも難点・弱点があり、被相続人の死亡後に配偶者の生活を安定させることは困難でした。
そこで、平成30年の相続法改正では、配偶者に居住建物の使用収益権限をのみを認める配偶者居住権という権利が新設しました。
本項では、配偶者居住権の概要についてご説明します。
配偶者居住権の設定方法には、以下の2点が挙げられます。
配偶者は、相続開始時に被相続人の財産に属した建物に居住し、次のいずれかの事由に該当するとき、配偶者居住権を取得できます(新民法1028条1項)。
もっとも、被相続人が相続開始時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立しません。
遺産分割の請求を受けた裁判所は、次のいずれかの事由があるときは、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができるとされています(新民法1029条)。
原則として、配偶者の終身の間です(新民法1030条)。
もっとも、遺産分割協議や遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所の遺産分割の審判で別段の定めがあるときは、その定めによります。
また、配偶者居住権の存続期間が定められたときは、その満了時に配偶者居住権は消滅します(新民法1036条による民法597条1項の準用)。
配偶者は、配偶者居住権に基づいて、居住建物の全部について、無償で使用及び収益ができます(新民法1028条1項)。
配偶者居住権の譲渡は禁止されています(新民法1032条2項)。
配偶者は、居住建物につき必要な修繕をすることができます(新民法1033条1項)。
もっとも、居住建物の増改築をする場合には、所有者の承諾が必要となります(新民法1032条3項)。
居住建物の通常の必要費は、配偶者が負担します(新民法1034条1項)。
必要費とは、その物の保存・管理・維持に必要とされる費用をいいます。
配偶者居住権は、次の事由があった場合には、消滅します。
令和2年4月1日以後に開始した相続及び同日以後にされた遺贈について適用されます。
令和2年3月31日以前に開始した相続及び同日以前にされた遺贈については、旧法の規定が適用されます。
配偶者居住権は、平成30年の相続法改正により新設された制度であり、設定する際には、相続財産全体や二次相続や相続税節税の可否についても検討したうえで行わなければ、設定時に予想していなかった不利益を負うおそれがあります。
そのため、配偶者居住権の設定を検討される場合には、一度専門家である弁護士に相談することを強くおすすめします。
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